以前勤めていた大手進学塾の山内から久しぶりに電話をもらってから数日、私から何か他に助言できることがないかと思い、顧問税理士の天海さんに相談してみた。
「山内という人物は行動力がピカイチで、説得力もあるので人をまとめることに長けているのですが、女癖が悪くて、素行面は人の上に立つにはどうかと思い、まずは自分をしっかり見つめようという話はしました」
「自分の資質を知ってこそ何が不足しており、何が必要か理解できるようになるからの。良いアドバイスではないか」
「山内はもう40代後半に差し掛かる年齢です。私も40歳になって起業した身ですから他人のことをとやかく言える立場ではないのですが、年齢的な問題ってありませんか?」
「20代や30代の頃と比べると体力的な面で劣るのは無理のないことじゃ。しかし経験から要領良く動けるようになっているという側面もある。何より20年間培ってきた実績や人脈は価値があるぞ」
「確かにそうですね。ある程度キャリアを積んでから起業した方が有利だと思います。私も一講師として働いていたときの経験が、経営者となっても活きていると実感しますよ」
「そもそも起業する者の平均年齢は右上がりの状態じゃ。日本政策金融公庫総合研究所の発表によると、2000年の平均年齢は41.6歳に対し、
2024年の平均年齢は43.6歳。
起業者全体の37.4%が40代という調査結果になっておる。50歳以上で起業する割合も27.1%と、合わせて64%にものぼる。起業するのであればその男はむしろ平均的な年齢と言えるかもしれん」
「定年の時期も延びていますし、健康でまだまだ現役といった感じの人も多いですから、日本社会全体がそういったムードなんですね」
「孔子の論語には、
『四十にして惑はず。
五十にして天命を知る』
とある。信念を持って自分の会社を新しく始めるには40歳から50歳がちょうどいい年齢なのじゃろう。ちなみに女性が占める割合も2000年が14.4%だったのに対し、2024年は25.5%と大幅に高くなっておるの」
「それも現代社会の風潮ですか。四半世紀も過ぎると大きく変化していますね」
「起業の際に苦労した点は昔も今も変わらんがな」
「そうなんですか。苦労したことか、何だろう・・・・・・ 法的にどういう手続きをしていいのか、税務がどんな仕組みになっているのか知識不足という点でしょうか」
「それが第3位じゃな。2024年に起業した36.7%がそう答えておる」
「もっと他の問題が2つあるんですね。ああ、資金調達か」
「そうじゃな。
起業のときに資金繰りに苦労したと
答えた者は全体の59.2%と
およそ6割で、これが第1位にあたる」
「私も天海さんのアドバイスのおかげで最適な金利の補助金を交付させてもらいました。貯金だけでは到底無理でしたから、やはり補助金は重要でしたね。そうか、その点は山内にしっかりと話してやる必要があります。それで第2位は何ですか?」
「顧客、販路の開拓。48.1%がそう答えておる。まったく経験していない畑であればかなり困難じゃが、20年の実績があればある程度の顧客も計算できるじゃろうがな」
「なるほど、確かにそこも苦労しましたね。とは言っても現状もその課題は残っているのですが・・・・・・ あの手この手といろいろチャレンジしたのを覚えていますよ」
「そういった問題点を考慮すると、
20年ほど様々な経験をして貯蓄を増やし、
知識やスキルを得てから起業するというのが
一番スムーズだと言えるぞ」