※これは独立したての経営者であるマモルと先輩経営者のショウの物語です。
ショウ「今年ももうあと少しで終わるなー。来年は2019年、平成の世もあとわずかか」
マモル「年越しまでのこの2ヶ月は勝負ですね」
ショウ「勝負? ビジネスの話か? プライベートの話か?」
マモル「もちろんビジネスの話ですよ。今年はあまりにも多忙過ぎて、ゴルフのラウンドにも一度も行けていないですからね」
ショウ「そういえば、しばらく一緒にラウンドしてないな。ロフト角22度のユーティリティーを新調したと喜んでいた時があったけどどうなった? ずいぶんと前の話になるが」
マモル「ええ。購入はしましたね。まだ一度もボールを打っていませんけど」
ショウ「なんだ、そこまで経営状態が芳しくないのか?」
マモル「はあ。昨日、事務の木梨さんと確認したんです」
ショウ「あの、寡黙な事務の女性ね」
マモル「損益分岐点について計算してみたところ、大幅な赤字状態でした。とりあえず評判を作るために収益性を考えずに受注していたのが原因です。従業員の人件費を含むと完全に赤字なんです」
ショウ「ただでさえ従業員との人間関係や育成面でバタバタしていたからな。会計や税務の面までは手が回っていないんだろう」
マモル「お恥ずかしい話ですが……」
ショウ「今度、うちの顧問税理士を紹介するよ。そこで相談してみるといい。何か見直していくべき点が見つかるだろう」
マモル「ありがとうございます。宜しくお願いいたします」
ショウ「収益性を考えずに受注していた結果として、評判は作れているのか?」
マモル「橋本さんがクライアントと衝突したトラブルもありましたからね。残念ながら、あの影響もあってマーケットは広がっていないというのが実感です」
ショウ「そうか。それでこの2ヶ月で手ごたえを掴みたいわけだな」
マモル「はい。この2ヶ月やれることが精一杯やってみて、それでも成果が出なかったら、元の状態に戻ろうかとも考えています」
ショウ「元の状態? また独りで仕事をするってことか?」
マモル「そうですね。どうやら僕は先輩と違って、経営者は不向きなようです」
ショウ「まあ、そのまま続けたら必ず成功できるという保証はできないから、俺も無責任なことは言えないけどな。ただ、俺も長らく経営不振な時期が続いたことがあったが、その時に、顧問税理士からこんなアドバイスを受けたよ」
マモル「何です?」
ショウ「落語家の桂小治氏の話でな」
マモル「経営不振で落ち目の時に、落語家さんの話なんですか? さらに落ちそうですね」
ショウ「いや、実際は桂小治氏の父親の言葉だ。『一念発起はだれでもする。取りあえずの実行もする。努力までならみんなするんだよ。そこでやめたら、ドングリの背比べで終わりなんだ。そこから一歩抜きんでるためには、努力の上に心棒(辛抱)という棒を立てるんだよ。この棒に花が咲くんだ』というものさ」
マモル「努力だけならみんなする、ですか。正直、耳が痛いですね」
ショウ「すぐには、成果は上がらない。成果を出すには1年か、2年か、それとも5年か…… そこまで辛抱できるかどうかが勝負だと思うぞ」
マモル「成果を出すことを考えると、遠回りしている気もします。もっと効率よく、成功するための近道もあるんじゃないかと」
ショウ「イギリスの哲学者、フランシス・ベーコン氏は、『人生は道路のようなものだ。いちばんの近道は、たいていいちばん悪い道だ』と述べている。必死になって苦労や困難を乗り越えることで、成功を掴むために本当に必要な力がつくんじゃないのかな」
マモル「一番の近道は、一番悪い道ですか……」
ショウ「試練に挑戦することをもっと楽しめよ。難しいかもしれないがな…… 自己暗示でも、そう思い込むことが大切だぞ」