※これは独立したての経営者であるマモルと先輩経営者のショウの物語です。
マモル「今日はお忙しいところを、お時間いただいて申し訳ありません」
ショウ「いや、大丈夫だよ。今週のこの3時間は、ちょうど調整のために空けておいたから。それよりどうした?」
マモル「橋本さんが退職すると言い出しまして」
ショウ「また顧客とトラブルを起こしたのか?」
マモル「最近は相手の気持ちを考えて発言できるようになっているので、そういった問題は起きていませんね」
ショウ「じゃあ、マモルとの意見の衝突か? 方針の違いとか?」
マモル「それに近いかもしれません。起業時には500万円の資金があったんですが、従業員を雇うことになったり、事務所を移したりするのに銀行に借入したんです。それが最近の売り上げ低迷で資金繰りがかなり厳しくなりまして、どうやらそのことに気付いて、責任を感じているようなんです」
ショウ「そうか…… 以前、マモルはこの3ヶ月が正念場という話をしてたけど、改善はされたのか?」
マモル「悪化することは防げるようになったと思います。でも、反転させるのは、まだまだですね。先輩に成功するためには、辛抱するのが大事というアドバイスを受けて、何とか資金を工面して半年でも、1年でも粘るつもりではあるんですが」
ショウ「かなり冷静に対処できているな。その話は橋本さんにはしたのか?」
マモル「はい。でも、自分や退職したらその分人件費が浮くだろうし、資金の工面は楽になるだろうって。どうやら橋本さんは半年やそこらでは黒字に転じることは難しいと思い込んでいるようです」
ショウ「マモルはどう思う?」
マモル「え? この半年で巻き返せるかどうかですか? もちろんそのために最善の策を練って、行動に移す覚悟です。ですけど、困難だと思っています」
ショウ「マモルがそう思っているのならば、橋本さんが諦めてしまうのも無理はないかもしれないな」
マモル「僕の、僕のせいですか?」
ショウ「ハーバード・ビジネススクール学長のニティン・ノーリア氏の言葉には、『偉大なリーダーとは、自分の夢を皆の夢であるかのように言い換えられる人だ』というものがある。周囲には見えないビジョンをわかりやすい言葉で語り、ビジョンを明確にすることで周囲を鼓舞するのがリーダーの役割だよ。そうしてみんなが同じ方向へ進むことができる」
マモル「僕の夢が、橋本さんには伝わっていないということですか」
ショウ「それもあるだろうし、マモル自身がその夢の実現を信じきれていないということも原因かもしれないな。その不安が橋本さんに自然と伝わっているのかもしれない」
マモル「夢があっても、信じられていない…… でもこんな状況が続いているんじゃ、悠長には考えていられませんよ。いつ潰れてもおかしくないんですから」
ショウ「村上さんがいなくなったら人件費は削れるだろう。しかし、その分だけ夢を実現する可能性は低くなるぞ。村上さんが本当のパフォーマンスを発揮えきるようになれば、確実にマーケットは開拓できるだろうし、売り上げも評判も高まるはずだ」
マモル「確かにその通りですが……」
ショウ「ノーベル賞を受賞したフランスの小説家にジャック・アナトール・フランソワ・ティボー氏がいる。アナトール・フランスの名前で親しまれていて、あの芥川龍之介も傾倒したという人物だよ。彼の言葉に『偉大なことを成し遂げるには、行動するだけでなく夢を持ち、計画するだけでなく信念を持たなければならない』とある」
マモル「信念ですか……」
ショウ「経営者が成功するためには必要な要素だろう。自分で信じられない計画など、いくら努力したところで成果には繋がらない。夢、計画だけでなく、最終的に自分を信じることが大切なんだよ。そして、それが周囲にも希望となって伝わるんだ」