※経営者として独立して間もないマモルが、先輩経営者ショウから成功に繋がるアドバイスを受けて成長していく物語です。
マモル「以前勤めていた会社に呼び出されたかと思えば、突然の再雇用集団面接とは驚きましたね。競合しているコンサルタント会社もいくつか来ていましたし」
ショウ「経営者で呼ばれたのは俺とマモルだけのようだったな。他はすべて人事部の担当者だった」
マモル「ということは知っていたってことですね。どうして僕らには事前に教えてくれなかったんでしょうか?」
ショウ「さあな。もと従業員の顔を久しぶりに見たかっただけかもしれん」
マモル「この会社の経営者って、そんな感じの方でしたっけ…… しかもその方はいなかったですよね」
ショウ「体調を崩して入院中らしい。かなり以前からだ。会社が傾いた原因のひとつはそれだろうな。ワンマン企業にはありがちな話だ。後継者をうまく育てられなかったということさ」
マモル「それにしても、先輩は面接の際に厳しい質問ばかりしていましたね。隣にいて、ものすごくヒヤヒヤしましたよ。会社を潰したことに罪悪感はあるのかとか、滅んだ原因はなんだったのかとか、傷口におもいっきり塩を塗るようなことばかり言っているんで、みんな顔が引きつっていました」
ショウ「自分は悪くないって顔している連中ばかりだったからな。仮に従業員という立場であったとしても、経営者としての自覚を持って働いていない限り、新しい問題に気づくこともできなければ、それを解決することもできない。俺が欲しいのは、これから迎える時代の急激な変化に対応できる力を持っている人材だ」
マモル「それを確認する質問だったんですね。なにか恨みでもあるのかと思ってしまいましたよ」
ショウ「俺のことよりマモルの印象はどうだったんだ」
マモル「そうですね、やはり経験豊富で実績もある人たちばかりでした。起業してもやっていけそうな感じでしたけど」
ショウ「その気概があればな。しかし、あればあそこにはいないだろう。つまり言われたことは要領よくこなすことができるだけさ。そんなことならこの先のコンサルタント業はすべてAIに根こそぎもっていかれてしまう。もっと素早く的確なアドバイスをしてくれるからな。重要なのは創造力と行動力だよ」
マモル「実際に質問していってそういう人を見つけたんですか? 田口さん、鈴木さん、藤井さん、星野さんが該当するのかなと僕は思いますが」
ショウ「俺が見つけたのはひとりだけだ。マモルが挙げたメンバーとは違う」
マモル「え、じゃあ、佐藤さん、高橋さん、小川さん、ああ福良さんもいるか…… あと谷さんとか」
ショウ「いや。全部違うな。大島くんだよ」
マモル「大島くん? あの一番若い人か。こう言うとなんですが、ひ弱な感じでしたし、空気読めていない発言も多かったですし、あの短時間の中で唯一欠点をさらけ出していたように思えましたが」
ショウ「だが、何をやりたいのか、何を目指しているのかが一番明確になっていた。勇気を持って自己開示しなければ本当の自分を知ってもらうことはできない。人間味を発揮して活躍できるコンサルタントには、その意欲と積極性が欲しいんだよ。欠点をさらけ出したのはその裏返しだ。アメリカの第16代大統領であるエイブラハム・リンカーン氏は欠点についてこう述べている。
『私の経験によれば、
欠点のないものは、
取り柄もないものだ』
とね」
マモル「そうか、先輩の質問は自己開示を促すものでもあったのか。確かに自己開示によって構築していく人間関係もビジネスシーンでは大切だな。相手の顔色をうかがってばかりいずにおもいきって踏み込む勇気も必要なんですね」