【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】
天海さんの税理士事務所から帰宅し、改めて頭の中を整理してみる。
まずは起業の形態だ。学習塾の始めるにあたって、どういう立場で起業するのかで大きな違いがあることを知った。個人事業主と法人かという選択だが、天海さんの話を聞いて、スタートは個人事業主、軌道に乗ったら法人化がベストだと感じる。
売上1,000万円に達したら法人化という話だったが、はたしてそんな売上出せるまで大きくなるのだろうか。
「年間の売上が1,000万円ということは、月の売上はおよそ84万円か。月謝が2万円だとして42人の生徒には来てもらわないといけないことになるな・・・・・・」
これはかなり先のことになりそうだ。おそらくスタートは集められて塾生数は数名、10人を超えたら大成功だと思っていたので、法人化するメリットを受けられるまで数年はかかるのではないだろうか。
つまりこの点については悩む必要はない。
問題は、まず「どこで教室を開くのか」だろう。これによって家賃も変わってくる。そして「誰に対して授業を行うのか」。自分ひとりで対応するとなると、集団指導では幅広い学年をカバーできなくなってしまう。そうなるとやはり個別指導がいいかもしれない。それだとどの学年でも、どの科目でも対応でき、広く募集をかけることができそうだ。
そして大きな問題になるのが、起業資金はどのくらい必要で、どのくらい自分で用意でき、どのくらい融資を受けることができるかという点だろう。
見切り発車でも、とにかく始めてしまえばなんとかなるのかと甘いことを考えていたが、やはりそうはいかないようだ。この点については天海さんから帰り際かなり釘を刺された。
「はじめさん、よいか、起業をするという決意はたいへんなことじゃ。新しいことに挑戦するということは、これまでの安定した生活を捨てる勇気も必要じゃからな。リスクも当然ある。それでも起業していくという道を選ぶのは立派。しかし、家康公はこう言っておる。
『決断は実のところ
そんなに難しいことではない。
難しいのは
その前の熟慮である』
とな。ということで、もう一度じっくりと5W1Hについて見つめ直してみるのが大事じゃぞ。決断まえの熟慮が、起業の成功に大きく関わってくるからの」
もう一度、天海さんのその言葉を反芻してみる。
これまでは、わかりやすい授業を行い、生徒のやる気を高めるような話をし、成績を向上させることで生徒や家庭を満足させれば充分だった。その延長線上に自分で学習塾を経営してみるというものがあるのだと考えていたが、まったく別の視点や取り組みが起業や経営には必要になるというだ。
「どんなサービスを提供すれば、競合との差別化ができるのか」という点を深く考えてこなかった。
物件を借りるにしても、家賃の他に敷金、仲介手数料もかかるし、机や椅子も揃えないといけない。
「実際に教室を開くと、どのくらいの経費がかかるのか」という点もわかっていないのだ。
税理士の天海さんに相談して、
初めて自分の課題点に気づくことができた。
「現状以上にイメージを固められるよう、いろいろ調べないといけないな。そうすればもっと具体的なアドバイスが天海さんから受けられる」
アドバイスを受けるのなら天海さんが一番いいと私は思っていた。他の税理士事務所であれば、「とにかく始めてみよう」とどんどん急かされていたかもしれない。天海さんは成功するためにじっくりと取り組むことを勧めてくれた。信頼できる税理士だ。
まずは必要経費についてしっかり調べてみよう。