【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】
天海さんの税理士事務所を訪ねて、日本政策金融公庫から300万円の融資が受けられるというアドバイスをいただけた。ひとまず起業するための資金はなんとかなることがわかり一安心。しかも手もとの200万円の資金は生活資金などに利用できる。
「融資を受けるに際して、日本政策公庫様式の創業計画書を作成する必要があるの。
創業計画書の数値計画は、
わしが36ヶ月分作成するが、
それ以外の部分はお主が作成するのじゃ。
というよりお主にしか作れない」
「36ヶ月分というと3年間分ですか。融資を受けるためには、そこまで先の見通しが必要なのか・・・・・・ ちなみにどのような内容を記載していくんですか?」
私も天海さんと同じようにお茶を口にしながらそう尋ねた。
「項目はいろいろあるの。まずは創業の動機」
「動機。もっと多くの子どもたちに教育を受ける機会を作りたいという思いですね」
「まあ、その辺りはくわしく説明できるようにしておいて、それをwordで書いてもらえると助かる」
「説明ですか?」
「日本政策金融公庫の担当者との面接があるからの。説得力のある動機を伝えられればOKじゃ。次は起業するはじめさんの略歴。これは問題ないじゃろう。そして取引商品やサービス。集客のやり方も検討せんとな。さらにターゲットとなるお客様。ここもかなり明確じゃろう。従業員はなしじゃからこの項目は気にしなくていいの。車のローンなどの借入状況も確認しておいてくれ。資金の項目もクリアできたから、最後は売上見通しじゃな」
「結構いろいろな項目があるんですね」
「そりゃあ融資じゃからの。思いつきじゃなく、しっかり見通しを持って準備を進めているのかどうかが審査のポイントになる。そのための確認項目じゃよ」
「売上が見通しの通りになるのかどうかは、少し不安ですが」
「ビジネスは始めてみないとわからんこともあるからの。
創業計画書に記載した数値とは
異なる売上になってしまっても、
予定通りに返済していれば特に問題ない。
同業者の売上計画と比較して無理のないものになっているのか、運営を継続できる売上になる見通しはあるのかという点の確認じゃな」
実は売上がどうなるのか、まったく見通しが立っていなかった。そもそも月謝についてもまだはっきりと決めていない。募集や入会数のノルマ・ノルマの日々に嫌気がさして以前勤めていた学習塾を辞めたので、売上や月謝の面は直視してきていなかったのだ。
しかし、起業するうえで月謝の設定は絶対に必要だし、融資を受けるためには、どのくらいの生徒を集めて、どのくらいの売上になるのか、塾講師をやっていた頃よりもシビアに考えていかなければならない。
「売上は月に50万円くらい見込めるといいの。それだけあれば賃貸料や光熱費などのランニングコストを差し引いても充分な利益がある。はじめさんも生活できるじゃろ」
月の売上が50万円・・・・・・ 以前働いていた学習塾は大手で、少なくとも自分が担当する教室に150人の塾生がいた。月謝が中学高学年で25,000円ほど。月の売上は400万円くらいはあったし、講習会時期となるとさらに売上はアップしていた。
そこから比べるとハードルは高くないが、はたしてスタートでどのくらいの生徒を集められるのだろうか。仮に10名集まったとして、月謝5万円は考えられない。できるサービスを考えると、25,000円でも高いだろう。そうなると15,000円? それだと10人で月の売上は15万円となる。天海さんの言う50万円の売上にはほど遠い。ましてや10人すらも集まらない可能性があるのだ。
月謝をどう設定するのか。売上の見通しはどうなるのか。ここはもっと熟考する必要がありそうだ。