【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】
税理士の天海さんから的確なアドバイスを受け、私の起業準備は創業計画書の作成に移っていた。
創業系計画書を作成していくと、見落としていた部分や、早急に決めないといけない項目に気づくことができる。私は焦らずひとつひとつの課題点を丁寧にクリアしていこうと心に決めた。
まずは、1・創業の動機に書き込む「物件」の問題である。
開業場所が明確に決まっていない。候補はいくつか絞ってあるので、そこから最終的に選ぶだけなのだが、失敗は絶対にしたくないところだ。賃貸契約を結んだ後で、備品も搬入し、そこでやっぱり変えようというのは難しい話になるので、一発でベストな場所を選びたかった。
そうなるとやはり天海さんに相談しておいた方がいいだろう。
「おお、どうじゃ、創業計画書の作成は進んでおるか?」
一昨日に来たばかりではあるが、事務所内はまったく変わってない。天海さんは膝に猫を寝かせたまま、眠そうな目をしている。コロナ禍の影響もあるから、高齢者はなかなか外出できないのだ。
「今日は開業場所の相談にうかがいました。いくつか候補があるのですが、決定打のようなものがなくて決めかねているんですよね」
「授業の形態は決まっておるのか?」
「はい。集団は単価の問題、集められる生徒の数の問題、対応の問題などがありますので、やはり個別指導にします」
「そうか。そうなると、この物件はもう除外じゃの」
天海さんが指した物件は、1階を貸店舗として提供しており、東武東上線の●●駅から徒歩4分。築35年だが、42坪はありスペースが広い。そのため賃貸料は月27万円ほどで高い。敷金・礼金は0円だが、保証金が6ヶ月分かかる。
「集団指導であれば
教室の広さが30坪は必要じゃろうが、
個別指導なら15坪で充分じゃ。
そうなるとここは少し狭いかもしれんな」
次に指したのは、タワービル2階、東武東上線の●●駅から徒歩5分。築28年で8坪ほど。賃貸料は月10万円ほど。保証金と礼金は0円だが、敷金が12ヶ月分と高い。
どちらも駅から4~5分と立地条件は悪くないのだが、個別指導のニーズには適していないようだ。そうなると、この築49年、敷金1ヶ月分、保証金0円、礼金1ヶ月分で、10万円という物件も9.5坪なので手狭となるだろう。
「ここは16坪じゃな。駅から9分か、やや遠いな。賃貸料は月に10万円じゃからそこは相場じゃが、ビル4階というのは生徒にとってはおっくうじゃのお。外見上も目立たないのでアピールも弱い」
候補に挙げていた物件があっという間にどんどんダメ出しされて消えていく。確かに金額だけに注目していた点が大きな反省点だ。生徒が通いやすいかどうか、授業するスペースとして相応しいかどうか、通行する人たちにアピールできるような広告効果があるかどうか、そこまでは考えていなかった。
「これはどうじゃ。なかなかいいんじゃないのか?」
最後に指した物件は、東武東上線の●●駅から徒歩7分、築22年で15坪、賃貸料は月に10万円ほどで、敷金2ヶ月以外は保証金・礼金が0円。5階建てビルの1階で、シャッター付、前面ガラス張りとなっている。条件はニーズをかなり満たしているし、出店可能業種には塾も含まれているので、まったく問題はない。トイレもあるし、都市ガス利用のキッチンもあった。
しかもターゲットである3つの小学校の
ちょうど真ん中に位置している。
「これだ!」
私は思わず叫んでしまった。