【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】
今週、学校が夏休みに入ると同時に私の学習塾は夏期講習会がスタートした。
スタートしてまだ5日目の午後のこと、当初の予定であれば順調に教室で生徒に授業しているはずなのだが、私は天海さんの税理士事務所を訪ねていた。
「今年の夏は酷暑じゃの。猛暑日がこうも連日続くと身体にこたえるわ。はじめさんも頻繁に水分を補給して熱中症には警戒すべきじゃぞ」
事務所内は冷房が完備されているので快適だったが、一歩外を出ると35℃を上回る気温。事務所までたどり着くまでにYシャツは汗でベチャベチャの状態となっていた。梅雨も明け、本格的な夏の到来である。
「今日ははじめさんの塾はお休みのなのか?」
「そうですね。午前中に生徒が2人来て授業を受けていきましたが、午後は予約がありませんので、自動的にお休みです」
「最終的に夏期講習会には、どのくらい生徒が集まったのじゃ?」
「5人です。小学5年生が1人、小学6年生が2人、中学2年生が2人です。無料体験に来てくれた中学2年生の女子生徒はそのまま夏期講習会への参加となりましたし、友だち紹介の呼びかけをしたらさらに1人参加になりました。意図した行動が実を結んだのは嬉しいのですが、目標は20人だったので、目標には届いていません」
チラシには限定効果を狙って20人と記載したが、実際は定員の25%に過ぎなかった。
「講習会の料金は3万円なので、売上は5人で15万円。家賃が10万円で、光熱費も加えるともうその時点で赤字ですね。今月の利息分の返済や生活費は完全に貯蓄を切り崩すことになります」
「日本政策金融公庫への返済はまだ猶予期間なので、利息分の5,000円じゃからの。そこまで負担にはなっておるまい」
「はい。しかし、元本返済据え置きの期間ももう少しで終了しますから、そこからは毎月43,000円の返済です。仮に夏期講習会に参加している5人全員が入会し、夏休み明けも通塾してくれることになったとしても、月謝15,000円×5で、75,000円ほど。こうなると返済どころか、家賃や光熱費も払いきれない状態です。しかも100%の入会率は見込めませんので、月の売上はさらに低くなりそうなんです」
「なるほど、それでこの暑い中を訪ねてきたわけか」
「月謝15,000円・50人の塾生で、毎月75万円の売上になることを見込んでいましたが、まったくほど遠い状況です。現実はその10%に到達できるかどうか。先を考えると不安になってしまい、生徒に授業をしていてもそのことで頭がいっぱいです。大手に勤めていた際も、講習会をやりながら入会活動で忙しかったのですが、経営のことまでは考えていませんでしたから、こういう精神状態で授業をした経験がないので戸惑っています。起業準備の段階でもこんな悩みを相談させていただいたことがあるのですが・・・・・・」
「確かに平坦な道のりではないの。一講師と一経営者では、背負っているものも違う。
ただし、思いは同じはずじゃ。はじめさんがどんな思いで教育に携わっているのか、どんな思いで学習塾を起業したのかは、先日はっきりしたばかり。今は天にその思いがどれほど強いか確かめられている時期じゃ。
経営に不安を感じるあまり、
肝心の授業や生徒さんたちへの
対応が疎かになっては本末転倒。
実際にはじめさんを頼って生徒さんは来てくれておる。
今は目の間の生徒さんに集中し、
全力を尽くすべきではないかの。
家康公もこう言っておった。
『願いが正しければ、
時至れば必ず成就する』
とな」