【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】
トラブル続きの中でTOKYOオリンピックがなんとか開幕したのと同じ時期に、私が開校した学習塾もなんとか5人の生徒を迎えて夏期講習会をスタートしていた。
連日のように猛暑が続く厳しい環境だったが、5人の生徒は休まずに授業に来てくれる。
税理士の天海さんからアドバイスを受けたように、今の私にできることはこの5人に集中し、手厚いサービスを行うことだ。
そのことだけを考えて生徒に向き合うべきなのだが、時折脳裏をよぎるものがあった。それは先日、久しぶりに電話をかけてきた以前の職場の友人との会話である。私の開校を祝福してくれる内容だったが、後半に気になることを話していた。
「起業したものの1年後には倒産するってことも珍しくはないらしいぞ。起業後の1年で30%が倒産するって話だ。5年生存する会社は50%。10年までだとなんと10%しか生存できないって。つまり90%は10年の間に倒産するってことだ」
相手は別に嫌がらせのつもりでそんなことを言ったわけではないのだろうが、ただでさえナーバスになっている私はそれを聞いて余計に不安は募った。ただし、そういうことを考える前に目の前の生徒に全力を尽くすべきだとアドバイスを受けているので、日中はまったく考えないように意識している。意識はしているものの、生徒が帰った後や、合間の休憩時間にはついつい考えてしまう。自分がこんなにもネガティブ思考だったことに驚きもした。
「天海さん、夜分にすみません。ついつい気になることがあってお電話してしまいました」
「構わんぞ。わしは夜風にあたって涼んでおったところじゃ」
「ありがとうございます。実は・・・・・・ 」
私は友人との会話の内容と共に、1年で30%が廃業するという現実の信憑性について尋ねてみた。
「中小企業白書の報告書によると、個人事業主は1年で37.7%が廃業、法人企業でも20%ほどが廃業しておる。10年では個人事業主の88.4%、法人企業の64%が廃業しておるな。あながち間違っている話ではないの」
「そうですか・・・・・・ 起業した以上、誰もが廃業せずに継続していきたい気持ちで懸命に取り組んでいるはずです。それにも関わらず3割の経営者が道を閉ざされるわけですよね。私の取り組みでは当然その3割の方に該当するのではないでしょうか」
「ホホホ。はじめさんは先日からずいぶんと気弱なことばかり言っておるの」
「天海さんのお話を聞いて、生徒がいる間は指導に集中しているのですが、時間が空くとどうしても悪い方に考えてしまいます。自分自身のネガティブ思考にも驚いているところです。私は経営者には向いていないのでしょうか」
「ほう、ネガティブ思考じゃから経営者に適していないと思っておるようなら、逆じゃな。
リスクを事前にイメージするには、
猪突猛進のポジティブ思考では難しい。
リスクマネジメントには
むしろネガティブ思考は必要じゃよ。
実際に実績を残している経営者には自分自身をネガティブ思考だと分析しているケースが多い」
「そうなんですか。それは意外ですね」
「いろいろなリスクを想定し、それに対応する策を用意しておくことは経営において重要なことじゃ。ネガティブ思考だからと自信を失う必要はない。ただし、いつまでもリスクばかりを気にしてビクついておるのではなく、メリハリも大切。
こうと決めたら
無我夢中でやり抜き、
力を出し切る瞬間も必要。
それをバランスよくできることが生存率を高めるポイントじゃろう」