【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】
猛暑、デルタ株の猛威、さらに記録的な大雨とたいへんな8月となったが、ひとまず盆入りし、起業した学習塾も数日の休み期間を迎えていた。
とは言っても、リズムを崩したくはないので朝は6時起き、運動や掃除といった日々のルーティンをこなして朝食をとっている。
今日はこの後、天海さんの税理士事務所を訪ねる予定だ。
夏期講習会が始まってからは忙しくて直接会って話ができる時間がほとんどなくなってしまっていたのだが、そんな中でも夜に電話で少し相談させてもらうだけで、頭の中が整理され、今やるべきことに向き合うことができた。
開校してわずかな期間ではあるが、正直、独りではとてもここまでたどり着けなかっただろう。
精神面での負担が、起業してからと、大手学習塾の一講師として働いていた頃では比較にならない。おそらく天海さんという相談相手がいなかったら、精神的に追い込まれて、潰れていたはずだ。
天海さんには感謝してもしたりないほどである。
「おお、はじめさん、元気にしとったか。少し頬がこけたかの」
相変わらず天海さんの事務所内はゆったりとした時間が流れていた。笑顔を浮かべながらのんびりとお茶を飲んでいる天海さんを見ていると、自然と安らぎを感じることができる。
「天海さんもお元気そうで、なによりです」
「いやいや、わしも長く生きてきたが、こんなに難儀した葉月は初めての体験じゃよ。はじめさんもこの時期に開校は何かとたいへんじゃっただろう」
「もう忙しいのが当たり前になってきていますね。あれもしないといけない、これもしないといけないという毎日です。生徒たちへの授業に学習アドバイス、電話への家庭への学習状況の連絡、室内は感染防止にも気を配らないといけないし、通常の清掃に大雨の処理・・・・・・ まったく休む暇もありませんが、このリズムには慣れてきました。慣れると不思議にたいへんには感じないものですね」
「この数日はお盆でゆっくり休むことができるの」
「いえ、それがそうもいかなくて。実は生徒を受け入れている期間はなかなか着手できなかった計画があるんです。個別指導のメリットを活かして、個々の生徒のカリキュラムを作成し、夏休み明けも徹底的に鍛えていこうと考えているのですが、そのカリキュラム作成の時間が確保できずにいて、このお盆の時期に取り組もうかと」
「ほう、心身共に疲れ果てているじゃろうに、はじめさんは意欲的じゃの」
「完全に仕事とプライベートの境がなくなってしまっていますね。24時間働いている感覚ですよ。従業員として働いていてこの労働環境だったら、ブラック企業として訴えているところです」
「しかし、はじめさんは覚悟を決めたようじゃな。
起業するということは、
何もないゼロの状態から
自分で創り出すもの。
そのためには、24時間のすべてを
捧げる覚悟は必要じゃろう。
かつて家康公と同盟を結んでいた尾張の織田信長がこう言っておった。
『仕事は自分で探して創り出すものだ。
与えられた仕事だけをするのは雑兵だ』
とな。はじめさんの意欲と姿勢は、まさに新しい道を切り拓く起業家には不可欠なものじゃ」
「そうか。みんなそういった苦労をして経営しているのですね。一講師として働いている間はまったく気づきませんでした。労働環境やボーナスの支給額に不平不満ばかり言ってましたからね。今思い出すとなんだか情けないです。もっとやれることがあっただろうになと思いますよ」