【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】
起業した学習塾がなかなか軌道に乗れない中、私は気分転換も兼ねて天海さんの事務所を訪ねることにした。
「はじめさん、ずいぶんとお疲れの様子じゃの」
さすがは天海さん、久しぶりに会って早々のひと言が核心をついている。最近はハードワークの影響からか、疲れが取れず体が重い。疲労が蓄積されているのは自分でもよくわかっていた。
「ゆっくり休暇を取る余裕も無いですからね。起業する以上は覚悟していたことです。泣き言は言えないですよ」
「そうか、そうか、それは潔い覚悟じゃ。しかし、疲労が蓄積し過ぎて、潰れてしまったのでは本末転倒。生徒への授業はできなくなるし、経営も成り立たなくなる。はじめさんの覚悟は立派じゃが、体をケアすることも大切じゃ」
「温泉旅行に行って、マッサージでも受ければ疲れも吹っ飛ぶような気がしますが」
「そうではない。日々の生活の中でできるケアじゃよ。
なるべく疲労を蓄積させない
ようにする生活習慣のことじゃな」
「生活習慣ですか」
「疲労やストレスを解消してくれるのは、副腎から分泌されているコルチゾールという抗ストレスホルモンじゃ。このホルモンタンクの容量には上限があるので、できる限り無駄に消費しないことが重要になる。このホルモンタンクが枯渇すると疲労が抜けない体になってしまい、最悪、気力があっても体が動かない事態に陥ってしまうのじゃ」
「無駄な消費というと具体的にはどういった行動なんですか?」
「睡眠不足、
運動不足、
栄養不足
は最もNGじゃ。質の良い睡眠は絶対に必要。その他にも、疲れたからといって甘いスイーツを食べる、塩分が多めのものを食べる、カフェインやアルコールの摂取過多、牛肉を食べるのもホルモンタンクを無駄に消費してしまう」
「コーヒーもダメなんですか?」
「カフェインに含まれるポリフェノールは、心身をリラックスさせる効果があるので、ブレイクタイムにたまに飲むのは構わんよ。ただし、コーヒーはドーパミンの効果で疲労感を忘れさせてくれるだけで、実は疲労は消えていない。そうやって働き続けると、ホルモンタンクを無理矢理絞り出すことに繋がってしまうのじゃ。疲労は確実に蓄積されていく」
「焼き肉は疲労回復に良さそうですがね」
「タンパク質はコルチゾールを生み出す大事な要素だが、疲れていると、脂質とタンパク質が多すぎる牛肉は消化しきれない。最もいいのは、疲労回復物質のイミダゾールペプチドを多く含んでいる鳥のムネ肉じゃな」
「牛肉より鳥ムネ肉を食べた方がいいんですね」
「野菜に含まれるビタミンやミネラルもホルモンタンクを生成する作用がある。これらの成分は脳疲労を軽減させる効果も期待できるからの、ストレスによるホルモンタンクの消費を軽減してくる。ただし、同じ抗酸化物質を食べていると効果は低下するので、毎日色の違う野菜を食べることも大切じゃ。この生活習慣だけでも心筋梗塞のリスクが68%まで抑えられるという研究結果がイギリスの大学で発表されておる」
「ただ野菜を食べればいいってわけでもないのか」
「50分の有酸素運動を毎日やるよりも、5分程度の高負荷の運動を全力でやった方が、疲労を予防できる体を作れるうえに、ホルモンタンクの消費も抑えられる。HIITと呼ばれる運動じゃな」
「生活習慣を改善させていくだけでも、
疲労に強い体になるんですね。
仕事をしていない時間帯をどう利用するのかが、長く働き続けていくうえで重要だとわかりました」