【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】
顧問税理士の天海さんと話し合った後、早朝にB学院大学近郊の集合住宅地へ向かうことが日課となった。郵便入れが一箇所に集まっているので、一戸建ての新興住宅地にポスティングするより効率良く配布できる。他にやるべきこともあるので、毎日30分と時間を決めて行った結果、始めて4日後に早くもリアクションがあった。
「ほう、もう応募が来たとは驚きじゃの」
「はい。しかも2件立て続けに申し込みがありました。どちらもこの春3年生になる男性です」
「3年生か」
「ええ、おそらく就職活動などで忙しくなるとは思いますが、働けるタイミングだけ来てもらえれば助かるかと」
「面接はいつになるのかの?」
「なるべく早く働いてほしいので、早速週末にも会ってみることになりました」
「今後のポスティングはどうするのじゃ?」
「都内へ通っている大学生が駅周辺のマンションやアパートにも住んでいますので、もう少し続けてみます。できるだけ大勢登録してくれた方がこちらも調整がしやすいですから」
ということで、朝のポスティング活動を継続しながら、夜には少しずつホームページに手を加えて充実させていく。指導者としての研修を手厚く行うこと、生徒にどんな大人に育ってほしいのかという自分の思い、そしてこの1年間実際に指導してみての感想ややりがいを書き加えてみる。そうして振り返ってみたときに女子生徒が圧倒的に多いことに気づき、女性の指導者こそ必要なのではないかと考えるようになった。女性の指導者がいれば、男の自分では手の届かない部分もフォローしてくれるかもしれない。
さらに数日後、今度は4年生になる男性からの申し込みがあった。続いてまたも3年生の男性。なぜか学年が上の男性ばかりだ。ただしこちらはどちらも都内へ通う大学生である。
4人の面接を行う日曜の朝、電話が鳴り、初めて女性からの問い合わせがあった。学年は春から2年生。アルバイト先を探していて、郵便入れに入っていたチラシを見て少し興味を持ち、ホームページを確認していて働きたいという気持ちになったそうである。都内の有名大学に通っており、学力もかなり高いことが予想された。まさに理想的な展開だ。早速その日に面接のアポイント。
「それでは5人の希望者とそれぞれ面接を行ったということじゃな。印象はどうじゃった?」
「男性の4人は全員が大手の学習塾で指導経験がありました。1年、2年続けてみて時間的な束縛が強いため辞めたそうです。就職活動で忙しくなる中でも、うちのような小さな個別指導塾だとかなり融通が利くのではないかと期待していましたね。唯一の女性は指導経験なしですが、頻繁にシフトに入ることができそうです。この際、5人全員を採用してバランスよくシフトを組むのもありかなと考えています」
「育成や研修はどうするのじゃ? さすがに5人となると同じ時間帯には無理じゃろう」
「そうですね。そうなると、指導経験者にはある程度の説明だけになってしまうかもしれません。以前に勤めていた学習塾の指導スタイルが色濃くなるとは思いますが」
「指導に一貫性がなくなってしまい、それがクレームになったり、子どもたちの心が離れてしまうのが心配じゃの。家康公の言葉に
『多勢は勢ひをたのみ、
少数はひとつの心に働く』
というものがある。
大勢抱えて研修が疎かになってしまうよりも、
少数精鋭を育成した方が
はじめさんの志も伝わりやすいじゃろうし、
純粋にその志を全うするために
働いてくれるのではないかの」
「では、2人ぐらいに絞るべきということですか?」
「むしろここは1人でもいいかもしれんぞ」