【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】
3月ともなり朝の肌寒さも緩んできた。季節はもう春だ。春の陽気で自然と気持ちも高まってきて、開校2年目はさらに飛躍できる1年になるような予感がしてくる。
目下の問題は、増えてきた生徒にしっかりと対応できる学生アルバイト講師を育てること。学生とはいっても年齢はもう20歳。社会人ではないものの、立派な成人だ。指導の経験はなくても、都内の大学に通っているほどの学歴はある。研修はそう難しい話でもないはずだったのだが、始めて1週間でその考えがいかに甘いものだったのかを思い知らされた。
今日はその相談で、久しぶりに天海さんの税理士事務所を訪れている。
「今年は、3月22日にはこの辺りの桜も開花するそうじゃ」
天海さんはお茶をすすりながら、のんびりとそう言った。本格的な春の到来はもう目と鼻の先に迫っているということだ。
「期待して待っていても、予想通りにはいかないでしょう。桜は時間など気にしてはいませんから」
「おや、はじめさんがそのような言い草をするとは珍しいの。何かあったのかい?」
「それがですね、正式に二人の女子大生をアルバイト講師として採用したのですが、時間にルーズなんですよ。例えば、午後3時から研修すると決まっていたとしますよね、私は10分前にはスタンバイして待っているんですが、5分前になっても現れない。ほぼ時間ピッタリに教室のドアが開いて登場するんです。これって、逆じゃないですか。研修する側がギリギリに登場するのであればわかりますが、研修される側がギリギリって・・・・・・ 最近の若者はみんな時間にルーズなんでしょうか?」
「なるほど、それでいつになくカリカリした表情なわけか」
「お客様相手の商売ですから、時間にはシビアにいてほしいんです。生徒や保護者を待たせるなんて絶対にやってはいけないことですよ。どうすればもっと時間に対して強い意識を持ってくれるんでしょうかね」
「待たせることが相手の迷惑になっているということに気づけていないのかもしれんの」
「大学生ってそんなに常識がないんでしょうか」
「研修を始めてもう1週間以上経過しておるが、最初からそんな感じじゃったのか?」
「いえ、さすがに最初は二人とも10分前には来て、研修を受ける準備をしていました。でもここ2、3日はもうギリギリの登場です。遅刻にはなっていないので、私も注意はしてないのですが・・・・・・」
「となると、何かしらの理由があってギリギリに出社しておるのかもしれんぞ」
「理由ですか? 研修が始まるギリギリに来て、余裕の無い中で研修を受けてもデメリットしかないと思いますけどね」
「終了する時間はどうじゃ?
はじめさんはしっかり時間厳守で
研修を終えているのかい?」
「それは・・・・・・ 新学期まで残り期間も少ないですし、伝えたいことや覚えてほしいこともたくさんあるので、多少はオーバーしていますが。でも、それは仕方のないことかと」
「部下は上司の姿勢・言動をよく見ているものじゃ。いかに理由があったとしても、上司が時間にルーズであれば、それは部下に悪影響を及ぼすじゃろう。知らず知らずのうちにはじめさんが時間にルーズな環境を作り上げているのではないか?
部下を変えたいのなら
まず自分を変えること。
後は時間を守ることが、社会人として信頼されるために重要な要素なのかを、経営者自らが有言実行して伝えていくことじゃな。もうひとつ大事な点を付け加えておくが、
1分でも就業時間がオーバーした場合は、
その分のバイト代が発生するので、
その点も充分に注意すべきじゃぞ。
その点がルーズでもやはり上司・会社としての信頼を失うからの」