【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】
光陰矢のごとしという言葉がピッタリなのが、この時期の塾業界である。2022年を迎えたと思ったら、あっという間に1月・2月と過ぎ去り、3月ももう半分しか残っていない。4月からは新学期。息つく間もない。
多忙な中ではあるのだが、今日の午前中は顧問税理士の天海さんの事務所を訪れていた。最近は頻繁にアドバイスを受けており、今回浮上した問題もなかなか扱いにくく困っているのだ。
「そうかい、アルバイト講師が失敗を報告してこないというわけじゃな」
「はい。自習室で生徒から受けた質問に対し間違った知識を伝えていました。これは生徒も疑問に感じたようで、後ほど私のところに改めて質問に来たことで防ぐことができたのですが、それについて報告がないんです」
「その事実を知らないということはないのかい? 未だに自分の知識が間違っていると思い込んでいるかもしれないぞ」
「それはないです。その後で生徒から講師に指摘が入っていますから。そこで自分の指導した内容に間違いがあったことを認めたようです。その場でしっかりと謝罪はしているものの、その日の終了時の報告ではまったく触れてきませんでした。上手くいったことばかりの報告で隠しています」
「はじめさんから触れたということかな」
「・・・・・・ いえ、それが、講師の表情もこわばっていてその内容に触れにくい状態で、スルーしてしまいました。いつもはとてもいい笑顔なだけにギャップが凄くて、指摘すると追い込んでしまうのではないかという心配もあったものですから」
「報告・連絡・相談の報連相は社会人の基本じゃ。この点はしっかり研修で意識付けしなければならんじゃろ」
「もちろん伝えてはいます。しかし、最近になって失敗を隠すような事例が増えてきているんです。上手くいったことばかりの報告になっているのが現状です。今の若い子は自らの失敗を認めるのに慣れていないのでしょうか? 接していてプライドは高いなとは感じてはいましたが・・・・・・」
「うーん、それはあるのかもしれぬの。だが、失敗を隠すようになると取り返しのつかないような大きなトラブルに発展するケースもある。そこは迅速に改善する必要があるじゃろう」
「やはりずばり指摘し、改善を促すべきですよね。雰囲気が悪くなるのは間違いない気がしますが」
「原因はいくつか考えられるの。もしかするとはじめさんがあまりに忙しそうで、余計な負担をかけさせたくないという思いがあるのかもしれぬ。
迷惑をかけたくないから
自分で解決しようという意識に
なっている可能性もあるの」
「私のことを考えて、ということですか。だとすると本末転倒ですね。確かにあれもしないといけないし、これもしないといけないから今が学習塾にとってとても忙しい時期であることは話ました。それで私に気をつかって失敗を隠し、クレームや信頼低下になっていくことの方が問題です。問題の優先順位がまだよくわかっていないかもしれませんね。私の時間のことなど気にしなくていいのに」
「もしくは、失望させたくない
という感情もあるのかもしれぬな。
だが、逆にはじめさんのアルバイト講師への言動がこのような状況を作り出している可能性も否めないぞ。
報連相の際の上司の接し方によって、
実は報連相ができない心理状態に
部下を追い込んでしまうケースもあるからの。
それに気づかずに指摘だけするのでは余計に追い込むことになるかもしれぬ」
「え!? そんなこともあるんですか? ぜひその点も教えてください」