【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】
2人の学生アルバイトの研修をスタートして1ヶ月が経過していた。
私が若い頃に受けた研修といえば、授業のやり方について厳しく指摘されたり、板書を何度も反復練習させられたりして、毎日のように授業後の深夜や早朝に長時間の時間外労働を強いられたものである。それと比較すると、今回の研修は時間的な束縛も常識の半以内だし、1分でも超過したら給与も上乗せしている。
相手が辛い環境に免疫のない若い女性であるということもあり、言いたいことが喉まで出かかっても厳しい指摘など一度もしてこなかった。
研修を受ける側からすれば最高の環境だ。
それにも関わらず、私のせいで報・連・相が不完全な状態になっているとは信じられない話である。
「いったいどんな上司が、失敗を報告できないところまで部下を追い込んでいるのですか?」
私は自分が当てはまっていることなどないだろうという自負を持って、顧問税理士の天海さんにそう質問してみた。
「そうじゃな、部下の失敗に対して、感情的になって頭ごなしに叱りつけるとそれを嫌がって、失敗を隠し良いことしか報告しなくなる」
「そんなことはまったくしていないですね。そもそも叱ったことがありませんから」
「そうだったの。ではこれまでの報告を聞いているときのことを振り返ってみてはどうじゃ?」
「まあ、こちらとしては言いたいことは山ほどありますが、極力耐えていますね。さすがにそれはおかしいだろうというときは口調を柔らかくして指摘していますが」
「その際には相手の話を最後まで聞いているのかの?」
「最後までですか・・・・・・ 2人ともに当てはまることなのですが、良くいうと丁寧、悪くいうと無駄に話が長いんです。なので、明らかにその考え方や対応の仕方が間違えているなと感じたときは、話を遮って伝えるようにしていますね。ですから最後まで話を聞いていないことの方が多いと思います」
「ふむ。それは相手からするとどう感じるかの。
相手との信頼関係を築くのに
傾聴は重要」
「傾聴? コーチングスキルで聞いたことのある言葉ですね」
「相手の話の内容問わず、温かい視線を送りながら、相づちを打ったり、うなづきながら心から話を聴くことで、自分は受け入れられていると感じるものじゃ。そうして信頼が生れ、やがてどんなことでも心を開いて話ができるようになる。逆のことをすれば、当然逆の結果になるじゃろう。
話を遮って自分の話をするということは、
相手を受け止める気持ちがない
ということの現れじゃから、
部下は次第に心を閉ざしてしまう」
「確かにコーチングの意識は欠けていましたね。なにせアルバイトをするのが初めての学生で、指導経験もないものですからティーチングばかりで、こちらの考えを一方的に押しつけていたかもしれません」
「傾聴の中で質問し、相手は自分の考えを口に出すことで問題点に気づいたり、解決の方法を見つけることもある。学生とはいえ相手はもう20歳の大人じゃ。はじめさんが報告を聴く際に上手に質問をしていくことで、自分自身で気づける点も多いのではないのかの」
「そうか、信頼関係がまったく構築できていないから失敗を報告できないという可能性もあるんですね。私が日ごろから報・連・相の際に傾聴を意識していくことで、失敗も報告しやすい環境は作れるということですか」
「部下を無理矢理変えようとするよりも、自分が変わることで良い影響を与える方が対応はしやすいじゃろう。
自分が源泉だという意識は
上司には必要じゃからの」