【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】
ターゲットとしている中学1年生向けの定期試験の解き直し会は、なかなかの反響だった。改めて今から勉強の習慣をしっかり身につけることの重要性がわかったと、保護者から感謝の声が聞こえたし、生徒も次の定期試験に向けてやる気が高まったという感想がたくさん聞かれた。
参加した一般生の中からは、無料体験会に参加し、入塾するか決めたいというケースも3件出現し、今回の新しいチャレンジは大成功だ。
一方で気になる話も耳にした。それはこの夏から近所でオープンする新しい個別学習塾の存在だ。勉強を今から始めることの意義は納得できたが、そちらの塾も体験してみてから通塾する学習塾を決めるという反応が少なからずあたったのである。
もともと集団学習を柱とする大手の学習塾など競合はいくつもあったので、他塾についてあまりアンテナを張り巡らしてこなかった。だからこそ、うかつにも直前まで新規競合店のオープンについて知らなかった。急いで調べてみるとこちらと同じ小規模の個別学習塾。しかも新規オープンにつき、月謝が2ヶ月無料というサービスを打ち出してくるらしい。2ヶ月無料はかなりのインパクトだ。
この情報を私はすぐさま顧問税理士の天海さんに告げることにした。後手後手に回ると、こちらの塾生が移ってしまう事態に陥る危険性もある。早めに手を打っておく必要はあるだろう。
「今回の説明会で一般生の家庭の勉強への意識は高まったのですが、だからといって私の塾を選んでくれるかどうかは微妙になってきました。明らかに新規オープンする競合の方がリーゾナブルなので、流れを持っていかれてしまうかもしれません」
「しかし、はじめさんのところはこの1年間で実績も積み、信頼度も高まっていて、評判も良い。立地条件の良い場所に出店しているのだから、競合が増えるのは仕方のない話じゃ。そこまで焦る必要はあるのかの?」
「お客さんというものは、新しいサービスや流行には敏感です。何もせずに手をこまねいているのはやっぱり心配ですね」
「ほう、ということは何か具体的な対応方法を検討しておるのか?」
「ええ。あちらは夏期講習会からオープンする予定ですので、対抗処置としてこちらも夏期講習会は半額でいこうかと」
「値下げするということじゃな」
「わかりやすく、インパクトがあるのはやはり価格かと思いまして・・・・・・ 結果、向こうへの流入を防ぎ、こちらの塾生数を増やせられれば後からでも赤字分は補填できますし」
「一端値下げすると、そう簡単に価格は元に戻せぬぞ。ただでさえ値上げに敏感になっている情勢じゃからな。大事なのは、価格競争よりも、サービスの差別化ではないのかの」
「価格よりもサービスの内容ですか」
「スターバックスが成功してシェアを拡大できたのは、ドトールよりも安いコーヒーを提供したからではないぞ。むしろ逆じゃ。スターバックスのコーヒーは高い。じゃが、安いコーヒーを求めて客がごった返し煩雑になることはない。高級感を維持しつつ、環境を整備し、安らげる時間と空間を提供した」
「確かにスタバの居心地は最高ですね」
「スターバックスの信念は、
『人々の心を豊かで
活力あるものにするために。
ひとりのお客様、
一杯のコーヒー、
そしてひとつのコミュニティから』。
自宅でもない、学校でもない、貴重な第三の場所を、サードプレイスと呼んでおる。
値下げ競争に参加せず、
サードプライスを充実させることに
尽力したからこそ、
スターバックスは、
今日のポジションを得たのじゃ。
こういったサービスの差別化こそが、競合に負けないための重要なポイントではないのかの」