今年度で卒業していく中学3年生の塾生は多いのに対し、次年度に受験生となる中学2年生の塾生数は圧倒的に少ない。
早急な対策が必要だと判断した私は、まったく塾や受験に関心を持っていない層を対象にした受験説明会を開催することにした。
埋まっている潜在顧客を掘り起こす作業だ。
どれだけ集まるかが不安だったが、学生アルバイト講師にも早朝のハンディングやポスティングを手伝ってもらい、また、中学3年生の塾生にお願いして後輩に声をかけてもらって、ようやく6件ほどの受付となった。
中学2年生の塾生にも参加してもらうので合計8件となる。
当日の説明会には保護者にも参加してもらうので合計で16人は集まるだろう。
ひとまず形にはなった。
問題はどれだけの感化力のある説明会にできるかだ。
当初は単なる受験の仕組みや問題などの説明会を予定していたが、それでは他の塾が行っているイベントと大差はないことに気づき、内容をよく吟味することにした。
経営についていつも相談させていただいている顧問税理士の天海さんには、成功のためには喜んで損をする覚悟で行うべきというアドバイスを受けている。
この個別塾だからこそ可能なことを90分という限られた時間の中で実現する。
そのために最も重要なことは何だろうか?
生徒が今一番欲しているものは何なのか。
保護者が一番聞きたいことは何なのか。
そこに紐解く鍵が隠されているように思える。
午前中、そんなことを考えながら教室の清掃をしていると、電話が鳴った。
天海さんからだ。
「はじめさんが話しておった説明会まであと1週間となったからの、どこまで準備が進んでいるのか気になって電話したのじゃよ」
「ありがとうございます。お恥ずかしい話ですが、実はまだ中身が完成していないんですよ。一端は説明会用のパワーポイントも完成したのですが、白紙に戻しました。ここから新たに作成していこうと思います。」
「ほう、白紙にもどしたか、それは興味深い。それでははじめさんはこの説明会でいったい何をする気なのかの?」
「潜在顧客って基本的に勉強には無関心なわけですよね。保護者には少しはあるのかもしれませんが、先輩に声をかけられたからとりあえず行ってみるとか、親に無理矢理勧められてとか、生徒自体は無料だから参加しただけというケースがほとんどだと思います。そこで当たり前の説明を当たり前に話しても何も響かないのではないかと思ったんです」
「はじめさんは何が重要な要素だと考えておるんじゃ?」
「まだおぼろげなのですが、学生アルバイト講師全員に参加してもらい、個々に目を向けて働き崖がけしていこうかと。もちろん時給は払います。ハンディングやポスティングに協力してもらった際にも払っていますし。人件費はかかることが前提です」
「なるほどの。それで個別に目を向けてからは?」
「私はそこで一人ひとりの
可能性を見つけていきたいです。
そして将来への希望を
持って欲しいと考えています。
生徒にも、保護者にもです。勉強することに関心がないのは、失望することばかりで自信が持てないからではないでしょうか。だから勉強から目を背けている。本当は勉強することが必要なことだとわかっているはずです」
「希望・・・・・・ とても素晴しい目の付け所じゃな。NBAの伝説的なプレーヤーである
マジック・ジョンソン氏の言葉には、
『子供たちが必要にしているのは、
少しの助けと少しの希望、
そして子供たちを信じる
誰かの存在である』
というものがある。はじめさんの説明会に参加し、少しでも希望を見出すことができれば、眠りから目を覚まさせる大きな転機になるかもしれぬの」