日本が厳しい経済情勢のまっただ中にある今、お客様に選ばれる学習塾になるためには、「顧客感動(Customer Delghit)」が絶対に欠かせないことは間違いない。
私の学習塾でも顧客感動を生み出すことが、現実に可能であることを学生アルバイト講師の石川が示してくれた。
オンライン部門を担当してくれている石川の生徒やご家庭への対応はまさに神対応で、日々、顧客感動を与えている。
この状況を他の現場にも反映していきたい。
顧問税理士の天海さんにアドバイスをいただき、石川の対応には経営者である私の関わり方が大きな要因を占めていたことがわかった。
その仕事ぶりを認め、感謝を示し、裁量権を持たせたことによって、石川の意欲と主体性を高め、顧客感動を生み出すサービスに繋がっているのだと天海さんは語っていた。
そうであるならば、他の学生アルバイト講師でも顧客感動は実現できるということになる。
しかし、石川のような対応ができるようになることをただ待っているだけでは、いつまで経っても状況は変わらないことも考えられた。
顧客感動を積極的に促すようなアプローチが必要なのかもしれない。
もちろん強制するのは従業員の主体性を高めることと逆行するので注意が必要だ。
まずは古参の学生アルバイト講師である酒井と話をしてみることにした。
彼女も石川と同じ時期から私の学習塾で働いてくれている。
そういう点では私と最も信頼関係が構築されている従業員だ。
どう話を進めていくべきか判断が難しかったのだが、石川の仕事ぶりやその影響力についてどう思っているのか質問してみることにした。
もしかすると酒井も同じ方向でサービスを提供したいと考えているのだが、それがうまくいっていないのかもしれない。
こうして酒井と話をした私は、翌日の午前中に天海さんに電話をした。
「ほうほう、こちらから指示を出すのではなく、あくまでも客観的に考えてもらって自主性を促す作戦をとったわけじゃな。いいのではないか」
「それが、実際に話をしてみると予想外の返答だったんですよ。酒井は石川の仕事ぶりをあまりよく思っていなかったんです。理由は相手に立ち入りすぎだということです。生徒や家庭との距離が近すぎると。それを嫌がる家庭も多いから私は石川の仕事を参考にしていないと言われました」
「嫌がる家庭が多いのかの?」
「私もその点が気になってもう少し具体的な部分を聞いてみました。そこで2点の問題点に気づいたんです。ひとつは酒井自身が生徒や家庭との間に垣根を感じている点。もうひとつは、近づき過ぎると必要以上にいろいろな注文をされて、対応できなくなるのではないかという不安感ですね」
「無理な注文を受け入れて対応すること=顧客感動、というわけではないじゃろうな。しかし、確かにそういったサービスを要求してくるお客様がいるのも事実。そこははっきり線引きをして、できないことはできないとお客様に伝えていなかければならない」
「そうは言っても、要望を断ると顧客感動の実現は厳しいですから・・・・・・」
「いや、そうでもない。
ただ断るだけでなく、
自分のできる範囲で、
もっと相手に必要なサービスを
提供することはできるぞ。
そのためには相手との垣根を取っ払って、
相手に興味を持つことじゃ。
そうすれば相手が気づいていない潜在的なニーズに気づくことができ、期待値を超えるサービスが実現できるじゃろう」
「相手にもっと興味を持つことが、今のハードルを越えるために必要な要素なのか」
「古代ギリシャの哲学者として有名なアリストテレス氏は、人間関係の垣根についてこう言っておる。
『垣根は相手が作っているのではなく、
自分が作っている』
との」