日本の物価上昇は2月になっても続くようで、食品はなんと5000品以上、さらに電力会社も相次いで値上げを発表している。
電気代が昨年比4割増しになっているという話も珍しくはない。
インフレ率上昇の影響が、家計を直撃するのは目に見えている状態で、何をどう節約するのか、どこも四苦八苦しているだろう。
節約の優先順位として、子どもの習い事をひとつやめることは十分考えられる。
子どもが自分で勉強できるのなら、学習塾に通わずに自分で勉強してほしいという家庭も少なくないはずだ。
しかもそこに少子高齢化問題が加わり、子どもの数はどんどん少なくなっている。
今こそ本当に必要な学習塾だけが選ばれ、そしてそんな学習塾に多くの生徒が集中するような二極化の時代が到来するだろう。
生き残れる学習塾と、淘汰される学習塾に分かれていくのだ。
塾業界にとって、かつてないほどの逆風が吹く中となっているが、突破口は見えた。
それが「顧客感動(Customer Delghit)」である。
オンライン部門を担当している石川は見事に顧客感動を実践して我々に手本を見せてくれた。
後はそこに続くだけだ。
次に続くのであれば、石川と同じ時期からレッスンを担当している学生アルバイト講師の酒井だと考えたのだが、これがなかなかの難題。
石川は生徒や家庭をじっくり観察し、コミュニケーションを欠かさず、期待値を超える働きをしてくれているのに対し、酒井はどちらかというとマニュアルに沿って働く傾向が強い。
こちらの意図を汲んで、最低限の仕事をしっかりとこなしてくれてはいるのだが、それでは顧客感動は生み出せない。
顧問税理士の天海さんに相談したところ、顧客感動を生み出すポイントは、お客様にどれだけ興味を持てるのかというアドバイスを受けた。
お客様への思いやりと興味を常に持ち続けることができれば、おのずと主体的な対応ができるようになるはずだ。
私は改めて酒井と話をする機会を設けた。
現状の酒井が担当している生徒や家庭にどのくらい興味を持っているのかをまず知っておく必要があると考えたからだ。
すると、こちらが思っている以上にいろいろなことに気づき、それをどうにかしたいと酒井が苦心していたことがわかった。
夜になって天海さんから電話がきた。
「はじめさんどうじゃ、その後は何か進展はあったのかの」
「中学3年生を多く担当している酒井は、酒井なりに創意工夫を考えていました。受験に向けて決起会を開催して士気を高めたり、これまでの生徒の頑張りを称える動画を作成して、最終レッスンの際に上映したいと考えているようです。ただ、どう段取りしていっていいのかわからず、前に進めることができずに諦めています」
「ということは、生徒への思いは石川という学生アルバイト講師に負けておらぬの。はじめさんは何と返答したのじゃ?」
「自分もできる限りフォローしながら、酒井のやりたいようにやらせてみようと、裁量権を与えました。これが彼女を目覚めさせるきっかけになるかもしれません」
「それは確かに期待できるの。しかし、
顧客感動とは
サプライズで起こすものではない。
あくまでも日々の対応の中で
期待値を超えるサービスを
継続していくことじゃ。
それができているのが石川さんじゃな」
「継続は力なりということですね。石川の評判が安定して高いのもそういったことができているからですね」
「プロ野球選手でメジャーでも大活躍したイチロー氏はその道のりについてこう語っておる。
『小さいことを積み上げることが
とんでもないところに行く
ただ一つの道だと感じている』
これは顧客感動を生み出す上で大事なヒントになるのではないかの」