【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】
中学受験の合格・不合格が判明した矢先、次は高校受験。
そちらも合否が明らかになった。
なにせ私の学習塾で最も生徒数が多いのがこの学年だ。
平均倍率1.1倍と中学受験よりも圧倒的に倍率が低く、合格の可能性が高い高校へ進路指導を行ってきたので、結果にかなり期待をしていた。
そして運命の合格発表。
なんと、塾生23名は全員合格!
冬期講習会に参加してくれた一般生もわかる範囲で調べたところ17名中、不明3名、合格14名だった。
この全員合格という結果にアルバイト講師一同と共に喜びを爆発させたのは言うまでもない。
時間帯はバラバラだったが、中学3年生の塾生は全員が合格発表当日に合格報告に来て、私とガッチリと握手し、これまでの努力を労った。
女性アルバイト講師と姉妹のように喜び、泣きながら抱き合っている女子生徒が多いのがとても印象的に残っている。
塾生たちがそれだけこの学習塾を好きでいてくれた証拠だろう。
ここまで尋常ではない忙しさであったが、この瞬間を味わうとたいへんだったことはすべて吹き飛び、また来年に向けて頑張ろうという気持ちになる。
一方で経営者としては別の気持ちも湧いていた。
この23人が抜けてしまい、売上が一気に減ってしまうことへの懸念だ。
単純計算で売上は半分以下になるだろう。
いろいろな手を打ってはきたが、この春に補うだけの数の生徒が入会してくれるかどうか、正直自信がない。
夜になって顧問税理士の天海さんに、全員合格の報告をした。
「それは良かったの。はじめさんたちのここまでの苦労も報われたというものじゃな」
「そうですね、全員合格はとても自信になりました。心なしかアルバイト講師の表情も何かたくましく見えるんです」
「はじめさんのところの学生アルバイト講師は皆、一生懸命じゃからの。経験を積めばさらに指導力に磨きがかかり、もっと多くの生徒を笑顔にすることができるはずじゃ」
「そこなんですよ天海さん。もっと多くの生徒に来てもらうべく、今回の全員合格を積極的にアピールしようと考えています!」
「全員合格のインパクトは大きいからの」
「しかし、それでもこの大きな穴は埋められません。埋めるための取り組みはいろいろしてきましたが、この物価高が邪魔ですね。当初予想していたほどの入会は期待できないと危惧しています」
「卒業していく23名の中にはじめさんの学習塾に残りたいと言っている生徒はいないのか?」
「え? そ、そうですね、そう言っている生徒はいますが、実際のところ高校生の需要がなくてレッスンに対応していないんですよ」
「起業当初は高校生も対象にしておったはず。事業拡大してもいいのではないか?」
「事業拡大ですか・・・・・・ 高校部のことをまったく考えていなかったので、大学受験のノウハウを積んできていないです。これでもやれますかね」
「事業拡大といってもM&Aをするような大規模なものではあるまい。
今の自社のサービスを最大限利用して
スタートするものじゃから
コストも抑えられるじゃろう」
「高校部を新設すれば塾生の何人かは残ってくれると思います。高校生の内容を教えられる学生アルバイト講師も多くいますしね。ただ、そのカリキュラムと、スケジューリング、シフト管理、諸々準備が必要です。まずは数学・英語に特化した内容にすれば、すぐにでも対応可能か・・・・・・」
「アメリカのモルガン財閥の創始者であるジョン・ピアント・モルガン氏の言葉にはこんなものがあるぞ。
『できるだけ遠くへ行こう。
そこに着けば、
もっと遠くの景色が見えるはずだ』
との」