【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】
中学3年生の高校受験が見事に全員合格となったものの、卒塾していった後の売上減少は大きいということで、高校部への継続を急展開することになった。
実際のところカリキュラムも仕組みも何も決まっていないため、ひとまず自習室を解放し、受験が終わった生徒たちが休むまず勉強し、入学式を向かえるための環境を整えた。
高校部の需要が起業してからまったくなかったため、ノウハウは何も蓄積されていない。
かといってそのまま全員送り出してしまうと、この先も高校部での事業拡大は実現化しないだろう。
まずは今のサービスで対応できることを行い、「新高1特別準備講座」という名称で、この1ヶ月は1万円の月謝とした。
現状で参加してくれているのは、合格が決まった塾生の中で2名。
わずか2名ではあるが、今後の対応の充実や生徒の満足感によっては、残り21名のメンバーも戻ってくる可能性が高い。
さらに忙しさが加速した状態になった中、以前に勤めていた進学塾の先輩の木下さんに時間を設けてもらい、高校部のノウハウについて教えていただくことになった。
「そんな急遽の決定でよく対応しているなー、準備に1年はかかる話だろう。まあ、小規模だからこそそういった無理も利くんだろうが、うちじゃ到底ありえないな」
木下さんはさすがにあきれ顔だ。
「はい。それは十分承知の上です」
「市場を拡大したいのなら、まずはマーケット分析と戦略が先決だろう」
「少子化とコロナ禍、さらに物価高で塾業界が厳しいことは身に染みて実感しています」
「おいおい、
経営者はマーケット分析を
常にタイムリーに、
そして正確に把握しておく必要があるぞ。
2023年2月に発表した経済産業省の特定サービス産業動態統計調査によると、学習塾の売上高は、2020年に4,702億円だったのが、2021年には5,517億円、2022年には5,549億円とコロナ禍よりも規模が大きくなっているんだよ」
「そうなんですか!?」
「まあ、塾生数の数は2022年に減少に転じているが、客単価が上がっているから全体の売上は微増になっている。
学校のICT化が前倒しになったことでタブレット端末を所有する家庭が増えたからな、業界としてはオンラインサービスを拡大しやすくなった。子ども1人にかける費用は増加傾向だよ」
「右肩上がりというわけですね」
「うーん、単純にそうとも言えないな、小中高校生と手広く事業展開している●●●の2023年2月の第3四半期の決算資料を見て確認してみたんだ。
都内では中高一貫のニーズが高まり、売上高は前年比プラス4.5%となっていて、塾生数も前年比プラス5%と確実に増加しているが、メインのオンライン予備校は売上高前年比マイナス2.6%だ。
積極的投資で営業費は前年比マイナス4.3%だった。
こちらはコロナ禍の影響が大きかったと説明しているよ」
「高校部の方が経営は厳しいのか」
「今年の合格実績で、すでに早慶5,178名輩出していてもだよ。ちなみに昨年の東大合格実績は853名で日本一の合格実績を更新している。
そこでも高校部の運営は苦戦しているわけさ」
「オンラインレッスンの普及で、超一流予備校講師の授業を自宅で受けられる時代ですからね。
大手には到底太刀打ちできないか・・・・・・」
「いや、そうでもないぞ。入り込む余地はあるんだよ」
「かなり困難な話ですよね」
「はじめは、戦略論の権威であるアンダーソン経営大学院の名誉教授、リチャード・P・ルメルト氏の言葉を知っているか?」
「顧問税理士の天海さんから聞いた言葉があります。
『よい戦略は必ずと言っていいほど
単純かつ明快である』
ですか?」
「そう! その通りだ」