【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】
9月に入っても夏の猛暑が続いている中、2学期がスタートした。
人手不足で大忙しだった夏期講習会、その成果は当初の予想と大きく異なるものだった。
なにせ入塾活動にこれほど力と時間を割けなかった講習会は記憶にない。
以前に勤めていた大手進学塾では、夏期講習会の授業よりも入塾活動の時間の方が長かったほどなのだ。
朝は講師たちと入塾アタックするターゲットを打ち合わせし、生徒が来ると学習面談という名の勧誘面談を授業が始まるまで次々と行う。
休み時間もすべて面談で、食事をとる暇すらなかった。
空いたコマがあれば一般生の家庭へ電話し、これまた入塾について保護者と話をする。
すべての授業が終われば、面談した感触や保護者の意向を他の講師たちと共有し、今後どのようにアプローチしていけば入塾させられるのかを相談・・・・・・
はっきり言って塾生はないがしろだ。
朝から晩までひたすら一般生の入塾のことだけを考えながら夏期講習会の期間を過ごしていく。
営利目的で教育サービスに携わっているのだから入塾活動は必要な業務なのだが、その猛プッシュぶりがあまりにも露骨で、それに嫌気がさして講習会に二度と来なくなる生徒もいるほどだった。
それと比較すると天と地の差もあるのが今回の夏期講習会。
何せ個別の面談をまったくしていない。
学生アルバイト講師たちにも空きコマなどほとんどなく、あっても自習室管理や生徒からの質問対応や保護者からかかってきた電話対応。
新人講師も2人はもちろんのこと、私を含めすべての講師がレッスンを中心としてとにかく生徒の学力を伸ばすことに専念した。
ただし、顧問税理士の天海さんのアドバイスもあり、夏期講習会の最後には一般生だけを集めて話をし、このまま2学期も勉強する自分を想像してもらう時間を設けた。
それもわずかな時間だ。
入塾ゼロという結果であっても驚かないほどの対応ではあったが、結果として、小学6年生が1名入塾、中学1年生で2名、2年生で2名、3年生はなんと4名の入塾となった。
なにせ4月スタートの中学3年生が4名だったので、半年を経ずして2倍の塾生数になったことになる。
30名いる一般生の30%にあたる9名が入塾。
近年のエネルギー価格の高騰や物価高という背景がありながら、この入塾率は評価に値するだろう。
この結果に私はもちろんのこと学生アルバイト講師たちも全員喜んでいた。
それは入塾ノルマを達成できたことの喜びではない(そもそも入塾数目標も定めていなかった)、この夏を一緒に頑張った生徒と2学期以降も関われることへの純粋な喜びだ。
私はすぐに天海さんに電話をし、この入塾数について報告をした。
「それは良かったの、入塾活動と指導が中途半端にならずに生徒対応に全力を傾けたことで、一般生からの信頼を得られたことが成功の要因じゃろう。経営者は失敗から学ぶことも大切じゃが、成功から学ぶことも必要」
「夏期講習会という機会をどう活かしていくべきなのか、新しい視点を得ることができた気がします」
「成功から学び、その成功体験をアップデートしていくことは大事なことじゃ。カンザス州知事を務めていたエドワード・W・ホー氏の言葉に、
『私が知っている成功者は、
すべて自分に与えられた条件のもとで
最善を尽くした人々であり、
来年になれば何とかなるだろうと、
手をこまねいていなかった』
というものがある。
厳しい条件ではあったが、
生徒にとっての最善をしっかりと考え、
最善を尽くすために
切り替えて行動できたからこその
成功だという点を
まずはアップデートすべきじゃな」