【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】
意気揚々と2学期をスタートし、9月も折り返しに差し掛かった時点で私が経営する学習塾は流れの転換期を向かえた。
4月当初より順調に塾生数を伸ばしていたオンライン部門だったが、この9月に入り2名の退塾意向が出たのだ。
実際に通ってくれている状態であれば、面談で話をして打開策を提示するなどの対応がとれる。
しかし、オンライン部門の場合は急にそのような意向の連絡があり、すぐに退塾が確定してしまうので対応がとても難しい。
両名とも都内の中高一貫校を受験する小学6年生だ。
1月受験もするため残す期間はわずか4ヶ月あまり。
志望校模試の判定が悪ければ親子共にかなり焦りを感じるタイミングである。
この2名の学力で共通する点としては、夏休み前よりも夏休み最後の模試の方が偏差値は低かった。
伸び悩みというよりも、成績は明らかに下がっている。
何せモニターを介してしか生徒と接する機会がないので、事情が掴みにくい。
2名はオンライン部門の責任者である石川が担当している生徒だった。
退塾意向が出たことよりも、それに対応する手を打てなかったことを石川は嘆いていた。
家庭から「実績がありその中央一貫校出身の都内の家庭教師を見つけたから」、と言われれば確かにそれまでだ。
12月までに結果を出さなければ志望校を変更しなければいけなくなるので、親子共に後がない。
その切羽詰まった状態が、他の塾や家庭教師への変更の岐路となり、いきなりの退塾意向となる。
不幸というものは続くもので、今日になってさらに1名の退塾意向。
しかももうレッスンは受けないとの一方的な連絡を受け、即退塾決定。
弱り目に祟り目とはまさにこのことだ。
まだ石川には伝えていないが、この知らせを聞いてさらにショックを受けることは間違いない。
私は昼食を顧問税理士の天海さんととりながら現状について報告した。
「都内の中高一貫校受験はそれだけシビアな世界ということじゃの。そのままエスカレーター式で大学まで内部進学もできるから、中学受験にすべてをかけている家庭も多い」
「このような事態になった際の対応策についてもっと話し合って用意しておくべきでした。石川の表情が日増しに険しくなっているのが心配です。コミュニケーションの機会は増やしていますが、こういった悪い流れは一端始めると連鎖するというのがジンクスなので、さらに増えて彼女を追い詰める可能性もあります」
「張り詰めている気持ちを
緩ますことが必要じゃの。
教室の目立つところに
一輪の花があるだけでも
人は癒やされる」
「花、ですか。なるほど環境を少し変えてみることで悪い流れを断ち切るわけですね。確かに今はネガティブな気持ちがネガティブな結果を引き寄せている感じがしますので、そういった対応も必要かもしれませんね」
「流れというものは変えようとしてもそう簡単に変えられるものではないが、できることをしておくことは大切。花や植物を飾ってみると教室の雰囲気も変わり、視覚の変化が心の変化に良い影響を及ぼすじゃろう」
「特に女性であれば効果は大きいのでは? 私は花や植物に興味関心がないので・・・・・・」
「その点において男も女も関係はなかろう。歌手であり俳優でもある美輪明宏氏の言葉には、
『花は優しい。
見る人を慰めて何も見返りを求めない』
というものがある。見た目というよりも、その存在感に癒やされるのかもしれんの。子どもへの教育というものも本来は見返りを求めない花のような存在なのかもしれんぞ」