都内の中学受験も目前に迫った1月下旬。
学生アルバイト講師でオンライン部門に大きく貢献してくれている石川の報告を聞き、いろいろな視点に気づくことができた。
オンラインのレッスンではレッスン前後に必ず母親(たまに父親)とのコミュニケーションの機会を設けている。
2~3分ほどの時間で、挨拶や今日の生徒の様子などを報告する。
その際に必ず親子ゲンカが始まる家庭が数件あるというのだ。
受験本番が近づくにつれてその頻度が増し、ケンカの熱もかなり激しくなっているらしい。
小学校高学年からはいわゆる反抗期に入り、そういったケンカも起きやすくなっているのだろう。
私の教室に直に通っている塾生たちも、私たちの見えないところでは同じような状況に陥っている可能性があるが、リアルタイムにその光景を見る機会はほとんどない。
三者面談で口論になることもあるが、目の前に第三者がいるとブレーキがかかるので過激にはならないのだ。
母娘の場合、同性という側面もあるからなのか、聞くに堪えない罵倒のし合いが続くケースもあると報告を聞いた。
問題は私たち第三者が家庭の問題にどこまで立ち入っていいのかという点である。
生徒の親への口のきき方については当然注意すべきだが、親から子への悪態についても無視はできない。
精神状態が不安定になれば勉強に集中できないだろうし、受験本番に実力が発揮しにくくなってしまう。
何より親子関係が崩壊していくような状況は見逃せなかった。
以前に顧問税理士の天海さんとこのような家庭問題への対処について話をしたことを思い出した。
「ご両親の教育方針や向き合う姿勢が正しくないものだと感じても、相手を直接否定するような話はしないほうがいいじゃろう。より感情的になって収集がつかなくなるケースもあるからの」
「かなりデリケートな対応が求められますね、こういった親子ゲンカを予防する方法って何かありますか」
「どうじゃろうな。子供に自立心が芽生えてくれば親との衝突は自然じゃからな」
「それが過度にエスカレートしている場合はどうでしょうか」
「密室で親子が勉強について互いの意見を主張すれば、言い合いになる項目はいくらでもある。
やはり間に入って互いの話を聞くことのできる
第三者の存在が大きいじゃろう。
クッションになることで
行き過ぎた衝突は防止できるかもしれん」
「親にとっても初めての受験という場合が多く、学力や宿題状況だけでなく、スケジュールや取り組み方、時間の使い方などピッタリくっついて何時間も過ごしていると、さすがに生徒も不平不満が大きくなって、売り言葉に買い言葉のケンカが続きます」
「話を聞いて互いの思いを講師が受け止める必要があるの。
ただし、受け止めても
受け入れる必要はあるまい。
誰かに話しをすることで
自分の間違いや矛盾に気づくものじゃ。
話を聞く面談時間を
オンラインレッスンでも設けることは
貴重なのでないか」
「ただ挨拶や様子の報告だけの短時間の対応ではなく、コーチングできる機会も設けた方がいいですね」
「モチベーションを高める講演者として有名なジグジグラー氏の言葉には、
『売るのをやめよう。助けることを始めよう』
というのがある。
売上アップのためのセールスマン向けの話ではあるが、教育の現場ではさらの必要な意識ではないかの」
今回この話を石川にすると、石川も腑に落ちたようで、早速面談の時間を設定し、対応していた。
親子関係が完全に修復されたわけではないが、両者ともに以前よりも落ち着いた状態になり、笑い話も出てくるくらいになったそうだ。
学力を伸ばすことだけが私たちの使命ではないことを改めて考えさせられる一件だった。