2024年も2月に突入。
この2月は塾業界にとって最も重要な時期であり、対応力だけでなくあらゆる方面に対処できるフットワークの軽さも求められる。
2月1日からは都内の中学受験が皮切りになるし、中学生や高校生は学年末試験という大切なテストを控えている。
中学3年生は受験本番を迎えるし、春期講習会の受付もスタート、さらに新年度スタートへの準備も進めていく必要がある。
すべての生徒にとってそれぞれ大切な時期になるのだ。
講師数は私を含めて9名。
正社員はいないが、学生アルバイト講師の柱石である石川と酒井がいる。
両名の女性はレッスンの手腕だけでなく、育成面やオンライン部門の責任者として大いに活躍してくれていた。
昨年の夏から加わった体育会系の男性講師・本多と女性講師・榊原も石川や酒井に負けない熱意で対応してくれているので信頼が厚い。
この冬から加わった井伊もすでに私の教室でいちばんの人気講師になりつつある。
他に3名のベテラン勢がいるのだが、塾講師の仕事以外で忙しいため、シフトに入るのも不定期であまり頼りにはできない。
今年からは中学3年生に向けて特別受験対策を2月に開催する。
私主導で準備を進めていきたいが、関わるべく業務が多くなり、ここに至って私の手が回らなくなった。
誰かにリーダーとしてこのプロジェクトを引っ張っていってほしいのだが、石川と酒井はいろいろな負担をかけているし、本多・榊原・井伊には経験が欠けている。
そうなると経験は豊富な他の3名にお願いしたいところだ。
今日も顧問税理士の天海さんと電話で話をすることになっていたので、この件について相談してみた。
「講習会は人手不足じゃからこの3名を欠かすことはできんの。いくら開催したいプロジェクトだといっても、無理に仕事を押しつけると辞めてしまう懸念もある」
「それは困ります。ただ、冬期講習会が終了して通常授業が再開すると、他の講師の指名が多い中でこの3名は指名がほとんどなく暇を持て余している状況なんです。自習室を管理する人も必要なので、主にそちらの業務をお願いしています」
「つまりこの3名は暇だということか。はじめさんとしてはこの3名の誰かにお願いして、より積極的に業務に携わってほしいという願いがあるのじゃな」
「できればそれが一番ベストですね」
「しかし、
忙しい者にはそれ相応の理由がある。
与えられた業務を完了できる力量があるからこそ任されているのであろうし、時間の使い方も他者よりうまいじゃろう。他人を巻き込むことも巧みなので仕事が集中しているのではないか?」
「確かにその通りです」
「そうであれば石川さん、酒井さんに依頼すべきじゃろう」
「え!? ここまで負担をかけている二人にですか?」
「フランス革命を起こし、皇帝にもなったナポレオン・ボナパルト氏の言葉には、
『何かをさせようと思ったら
いちばん忙しいヤツにやらせろ。
それが事を的確にすませる方法だ』
というものがある。幾分乱暴な物言いではあるが、
本当に大事な案件であれば、
それを任せられる人に
お願いするのが一番じゃ。
時間が空いているという理由だけで重要な業務を任せるのは危険ではないかの」
「しかし、これだけいろいろな業務を抱えて大変な二人が引き受けてくれるでしょうか?」
「もちろんそれ相応の対価は必要じゃろうが、この仕事に生きがいを感じているのであれば、引き受けてなんとかこなしてくれるのではないか? ベテランの3名もその姿を見て協力的になるかもしれん。そうなれば願ったり叶ったりじゃ。その3名が積極的に仕事に参加するようにしていくためにも必要な選択かもしれぬぞ」