他県から強力な競合「清洲予備校」が進出してきてもう1ヶ月以上が過ぎた。
実際に夏期講習会に参加してみて地元の子どもたちがどう感じているのか、それはまだ知る由もない。
SNS上で検索しても、盛り上がっていることをアピールするための清洲予備校のトピックスがアップされているだけで、実情はわからなかった。
「わからないことはいくら考えても無駄なこと、今自分にできることに集中することが大切」
これは顧問税理士の天海さんからのアドバイスだ。
あちらはあちら、こちらはこちら。
まずは私の学習塾を選んでくれた塾生や一般生を、この夏期講習会で大満足させることが肝心だ。
過去最大の逆境に立ち向かう心構えはできている。
しかし、今年の夏は異常に暑い。
40℃という猛暑を超えた酷暑。
しかも連日暑さが続き、体力を奪っていく。
午前の生徒のために午前8時には準備を整えて出迎える必要があるし、午後、夕方、夜の生徒と対応し、清掃と生徒情報の共有などをしていると午後21時。
さらに次の準備をして帰宅すると深夜0時を回っている。
シャワーを浴びて、遅い夕食を食べたらもう出社する時間が近づいている。
夏期講習会中には睡眠時間がほとんどない。
その状態でこの暑さなのだから疲弊していくスピードは急速だった。
さらにあまりに暑い気温のため空調の効きがよくない。
特に午後2時以降は外にいるのと変わらないような暑苦しさで、急遽扇風機を購入して教室内に設置してみたのだが、焼け石に水で熱風が吹き付けてくるだけ。
そんな環境では生徒もなかなか勉強には集中できない。
自習室の利用者も例年よりはるかに少ない状態が続いた。
当然のように一般生の入会意志もなかなか思惑通りにはいかず、それに反比例して夜の打ち合わせは日増しに長くなっていた。
精神的な疲労も蓄積していく一方だ。
明日は1週間ぶりの休み。
とはいえ、週明けまでには空調問題を解決したいので、業者に工事を依頼しているし、一般生の家庭への電話掛けもたまっている。
レッスンこそないが朝から晩まで業務は続くだろう。
知らず知らずのうちにため息をついている自分に気づく。
これではダメだとわかっているのだが、疲弊しているせいか気力がわかない。
スマートフォンを見てみると天海さんからのLINEのメッセージが送信されていた。
おそらくこちらの多忙さを配慮して電話ではなく、メッセージにしてくれたのだろう。
これであれば小休憩の際に目を通すことができる。
そこには連日の対応お疲れさまという言葉と共に、体調管理はしっかりできているかという問いかけが記載されていた。
体調管理に必要な項目は、
食事による栄養バランス、
リラックスの時間を設けてストレスの緩和、
そして最も重要な睡眠の確保。
実際のところどれもまともにできていない項目ばかり。
「疲労が蓄積すると気持ちも自然とネガティブになりがちじゃ。成果を求めるのであれば、講師を含め、はじめさん自身もしっかりと休息をとり、ポテンシャルを発揮できる環境を整える必要がある。焦る気持ちもわかるが、その点のバランスは重要じゃぞ」
と書かれており、最後に明治維新の立役者である土佐藩士の坂本龍馬氏の言葉が添えられていた。
『疲れちょると思案がどうしても滅入る。
よう寝足ると猛然と自信がわく』
確かに疲労困憊によってネガティブな気持ちになり、悪循環に陥っている。
この悪い流れを断ち切るためにもしっかりと睡眠を確保することは重要だ。
今晩は深酒をやめ早めに就寝して、良質な睡眠を確保しよう。
そして気持ちをリフレッシュさせて、来週絶対に巻き返そう。
私は天海さんの心遣いに深く感謝した。