中高一貫校を志望する小学6年生は、受験本番まで残り2ヶ月を切った。
人生初の受験ということもあり、プレッシャーから体調面や精神面を崩す生徒が増えてきている。
こちらとしては心配して質問するのだが、だいたいの生徒は体調・メンタルともに問題ないと答える。
しかし答えとは裏腹にレッスン時の講師の話をうわの空で聞いていたり、模試の序盤の基本問題でケアレスミスをしたりと明らかに精細を欠いているのだから、本人は自覚できていないのだろう。
だからこそ講師の真剣な声がけ、励ましがとても重要だ。
「集中力があまい! もっと集中しろ!」と安易に叱りつけてなんとかなるのであれば簡単な話だが、逆に萎縮してしまうケースもあるので、対応には細心の注意が必要だ。
生徒・保護者ともにナーバスになっているだけに、ここまで築き上げてきた信頼関係がなければこちらの意図がうまく伝わらないし、下手をすると不安要素を膨らましてクレームになることすらある。
集中力が高まっている状態と、集中できていない状態とでは、算数の得点で30点以上の差が付く。
その違いはわかってはいるのだが、意図して集中した状態を作り出すのは簡単ではない。
生徒に限った話ではなく、講師側にも当てはまり、集中力に欠けた状態でレッスンを行うと生徒の重大なミスを見過ごしたり、生徒の精神状態にも鈍感になってしまい、有意義なサービスができなくなってしまう。
経営者としてヤキモキする事態なのだが、ここは私の対応が大きな分岐点になるだろう。
顧問税理士の天海さんが以前に集中力についてこのような話をしていた。
ドイツの社会心理学者エーリヒ・フロム氏の言葉、
『集中力を身につけるための習慣は、
最初のうちは難しい。
目的を達成できないのではないかという気分になる。
したがって、言うまでもないことだが、
忍耐力を必要となる。
何事にも潮時があるということを知らず、
やみくもに事を急ごうとすると、絶対に身につかない』
を引用されていた。
集中力を身につけるのに焦りは禁物。
しかし、受験目前の今、何らかの具体的な対処は必要だ。
そこで講師、生徒どちらを相手にしても話すことがある。
集中力を高めるルーティンを決めることだ。
いつでもどこでもできる簡単なルーティンでいい。
大事なことは常にそのルーティンを繰り返し、
集中できる心理状態に自己暗示をかけることである。
プロ野球選手やプロゴルファーなどはそういったルーティンが独特だ。
とにかくこのルーティンを行えば、集中力が高まり、自分の実力を発揮できると思い込めればいい。
生徒のひとりは、下を向いて目をつむり、心の中で「やれる!」と3回叫ぶというルーティンに決めた。
ポジティブな言葉を発することは脳を刺激し、
目覚めさせる効果があるのでルーティンに最適だ。
他にも目をつむり、耳を塞いで集中しているイメージをするルーティンを取り入れた生徒もいる。
実際にその後で演習させてみると、過去問で捨て問とした長文の算数の問題がすんなり読めて正解していた。
すかさず講師は「その成功体験を忘れずに! しっかり集中できていた証拠だぞ!」
とその効果を絶賛する。
大切なのは集中力のスイッチの効果を信じること。
信じれば信じるほど邪念が薄れ、実際に集中できるようになる。
講師にもそれぞれ集中力のスイッチを決めさせ、レッスン前には必ずそのルーティンを実行するように指示した。
集中力のスイッチを入れた後は、生徒も講師も表情が一変する。
ちょっとした工夫なのだが、パフォーマンスを発揮するにはとても効果的な手法だ。