冬期講習会が終了し、3学期が始まって約1ヶ月。
あれこれ忙しい中で、メインイベントは1月下旬に行われる東京都以外の中学受験と2月1日から行われる都内の中学受験。
教室に通塾している小学6年生の中に都内受験はおらず、県内の受験になるが、オンライン生のほとんどは都内受験だ。
オンライン部門責任者の石川が退職し、精神的主柱を欠いた状態ではあったが、中途採用の伊達と、その他ベテランのオンライン講師陣の粘り強い対応のおかげで大きな問題はなく、全員受験することはできた。
後は合否の結果を待つのみである。

そんな中でなんと冬期講習会参加の一般生1名の入塾申込があった。
中学2年生の男子で、過去の講習会すべてに参加してくれてはいたが、費用の兼ね合いで入塾は検討していない家庭である。
担当したのはやはり伊達。
野球部のシュンに続き、これで2人目の入塾となった。
しかし、冬期講習会が終了して1ヶ月経過してからの入塾は過去に例がない。
いろいろな意味で他の講師陣が驚いている。
入塾したのは吹奏楽部に所属している「マモル」
素直な性格でコツコツ取り組めるタイプなため通塾はしていないが、成績は学年でも上位。
そのこともあり、保護者が入塾までは必要ないと判断していた。
シュンとはまったく状況が異なる。
それでも同じ手法で効果があったのかどうかを講師たちは経緯を知りたがっていた。
「ということで、2件目の入塾について、担当者の伊達に詳しく話をしてもらったんですよ」
私は顧問税理士の天海さんと昼食をとりながら、伊達の話を切り出した。
「確か伊達さんに担当させた一般生はくせ者ぞろいで入塾は厳しいはずじゃったの。それでも伊達さんは入塾100%を目標に掲げた。大風呂敷ではなく、勝算があっての目標宣言だったというわけか」
「ええ、伊達がマモルの保護者に伝え続けたのは、投資の効果でした。今投資することで将来大きな見返りが期待できること。そして投資は長期であればあるほど複利効果が期待できるという点です」
「資産運用の相談のようじゃな。しかし、その手法が響いたと?」

「講習会終了後には、お金の工面の方法まで提案したと。そしてようやく今後のプランが明確になり、晴れてマモルは入塾を許可されました。マモル自身は入塾したがっていましたからね、ハードルは保護者に通塾することで得られるベネフィットをどこまで強くイメージさせられるかという点だったわけです」
「費用の準備まで突っ込んだ話をするとはずいぶん踏み込んだの。下手をすれば怒りを買って二度と講習会にすら参加してもらえなくなるところじゃからな」
「そのリスクも考慮したうえで、三者面談からじっくりと話を詰めていき、自然な形で提案できる状況まで進めたようです。これまでの講習会では、なんとか入塾できるようマモル自身に保護者を説得する方向で対応していましたが、それではいくらやってもハードルは乗り越えられませんでしたね・・・・・・ 担当していた者としては悔しい話でありますが」
「フランスのファッションデザイナーであるココ・シャネル氏の言葉に、
『扉に変わるかもしれないという
勝手な希望にとらわれて、
壁をたたき続けてはいけない』
とあるが、今までの入塾対応はまさにそうだったのかもしれんの」
「伊達は同じ手法では成果は出せないとわかっていて、
三者面談時から個々に突き刺さる
エモーショナルマーケティングを
着実に確立していっていました。
それを知って、酒井も本多も榊原も自分たちとのレベルの違いを思い知らされたと、表情が如実に語っていましたよ」

