【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】
2023年も早いもので、もう2月も残りわずか。
中学受験は一段落ついたので、次は高校受験と中学生の学年末試験、そして新年度スタートとなる春期講習会へと一気に加速していく。
冬期講習会から多忙な日々がずっと続いているが、どの学生アルバイト講師も休まずしっかり出勤し、レッスンや生徒・家庭対応に一生懸命取り組んでくれているのを見ると、それだけで勇気づけられた。
今日は外出しなければならない仕事があって、街に出た。
そしてそこでずいぶんと懐かしい人に出会った。
以前私が務めていた大手の進学塾でお世話になった木下さんだ。
かなり気難しく、他の職員からも距離を置かれていたが、なぜか私とは気があった。
生徒を満足させるため、成績を上げるため、とにかく全力を尽くす人で、中途半端な生徒対応している職員には平然と罵声を浴びせていた記憶がある。
「はじめが起業した塾は順調だって聞くけど、実際は自分ひとりで経理から現場のレッスンからマネジメントまでたいへんだろう」
「そうですね、要約慣れてきました。信頼できる税理士の先生が親身になってアドバイスしてくれますし、学生アルバイト講師も皆頑張ってくれています」
「学生さんね。そういえばこっちは今年は大量に辞めたよ。厳しくしつけてしまったのが原因なのかね。そちらはどうなの?」
「とても自主的に取り組んでくれる学生アルバイト講師ばかりで助かっていますよ」
「へー、学生アルバイト講師の業務だってこちらと同じくらい過酷でしょう。学生アルバイト講師の定着率を高めるコツとかあるわけ?」
「コミュニケーションは意識してとるようにしています。塾長である私と直接話をすることで不満がいくらか解消されたり、意欲が高まるようです」
「話だったら俺もしているんだけどな」
木下さんは結構厳しい指摘が多いので、コミュニケーションというより、説教って感じなんですが・・・・・・と、思わず口に出しそうになった。
「褒めるということよりも、
感謝するということを伝えるようにしてます」
「褒めるより、感謝。そう言われてみるよ、良くやったなと褒めることはあっても、ありがとうなんて言ったことないかもしれんな」
「これは顧問税理士の天海さんから聞いた、ファッションモデルのミランダ・カー氏の言葉なんですが、
『疲れたとき、
なんだか自分がかわいそうになってきたときも
感謝の気持ちがあれば耐えられる』
そうです。私と学生アルバイト講師、学生アルバイト講師と生徒や保護者の間で感謝の気持ちを伝える頻度が高いことが、アルバイトの離職率を抑えているのかもしれません」
「感謝の気持ちか・・・・・・確かにその点はあまり考えていなかったな」
以前勤めていた進学塾の光景を思い出した。
仕事はやって当たり前。
生徒対応は一生懸命になって当然。
上司がそのひとつひとつ注目して褒めてくれるような進学塾ではなかった。
感謝の言葉などまったく記憶にない。
だから必然的に生徒に対しても講師は同じような対応になっていた。
これでは顧客感動までサービスの質を高めることはできない。
「私のところでは、今、顧客感動(Customer Delghit)を生み出すためにどうすべきかをいろいろ試行錯誤している段階です。顧客感動を生み出している学生アルバイト講師は、ご家庭にたくさん感謝されていて、そういった取り組みがさらに効果を上げていると思いますね。アルバイトの離職率が低いのはそういった要因もあるのではないでしょうか」
「へー、学生アルバイト講師でそんなスキルを持った子がいるんだ、ちなみになんて名前?」
「石川という学生アルバイト講師ですね。後、酒井という者も少しずつ石川に追いついています」
「石川ねー」
私はこのとき不用意にその名前を出してしまったことを、後々に後悔することになる。