【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】
いよいよ夏期講習会がスタート。
昨年の夏期講習会は塾生20名、一般生25名の45名での講習会だったが、今年は塾生が30名、一般生が30名のトータル60名。
オンライン生徒も11名おり、こちらも夏休み中のためコマが増えている。
夏期講習会の売上は200万円に到達。
これは開校以来最高数値となる。
親身な指導をコツコツ継続し、実績も評判も高めていくことができたからこその成果であり、ここまでの積み上げてきた手ごたえと、生徒と家庭の期待に応えなければいけないという使命感を同時に感じた。
心配していた人手不足については、新人学生アルバイト講師の本多と榊原がいよいよ本格的にデビューすると共に、就活などでなかなかシフトに入れなかったメンバーにもなんとか都合をつけてもらってなんとかなりそうだ。
ただしギリギリの数で対応することには変わりない。
しかし、講習会初日の夜から早速クレームの電話が入った。
自習室が野放しになってしまい私語があり、集中して勉強できないという内容だった。
私も含めて講師のほとんどがレッスンを行い、空きコマもオンラインレッスン、かかってくる家庭からの電話などの事務作業にも人手が必要で、自習室の管理まで手が回っていない。
アルバイト講師の業務後の報告でもこの問題点は挙げられている。
もちろん必ず1人が自習室管理をしているのだが、かかってきた電話対応も兼ねているのと、生徒の質問受けもしなければならず、隅々まで目が届いていない。
講習会の説明会では自習室の利用の仕方で一般生にも説明はしたのだが、ルールが徹底できていないようだ。
この状態を続けていたら一般生の入塾どころか、不満から塾生の退塾が出てくる危険性もある。
顧問税理士の天海さんが、講習会初日はどうだったのか気に掛けてくれており、夜に電話で話をすることができた。
「石川や酒井については2人分の働きをしてくれていますが、それでもまだ人手不足です。新人の本多と榊原は思った以上にしっかり働いてくれたので、それは嬉しい誤算ですが、ここまでキツくなるとは想定外でした」
「たくさんの生徒が塾に来てくれての嬉しい悲鳴じゃな。しかし、そのまま放置するわけにはいくまい。明日までに対応策をとらないとの。サービス低下へのクレームは迅速な対応が最も重要じゃ」
「とは言っても、人不足解消は今からではもう間に合いません」
「アメリカの実業家でDELLの創設者でもあるマイケル・デル氏の言葉には、
『することを決めるのは簡単だ。
難しいのはしないことを決めることだ』
とある。すべてを完璧にこなすのが難しいのであれば、しないことを決めて他のサービス低下を防ぐことが大事になるじゃろう」
「しないことを決める、ですか」
「何かひらめいたことがあるようじゃの」
「ええ、一般生が多いため、初日から一般生の学習面談もレッスン前後に行っています。そこで入塾のアピールやアプローチ方法を探っているのですが、この時間を一端撤廃します。入塾活動に遅延が生じますが、自習室の管理のあまさが全体の評判を下げることになってしまっては元も子もありませんからね」
「生徒も家庭も満足できる環境を整えてから、入塾活動を始めた方が効率的じゃろうし、成果も変わってくる。講習会2日目は改めて立て直しじゃの。夏期講習会は長丁場じゃ、慌てず、これまでの親身な対応をしっかり継続していきなされ。
クレームに迅速に対応することで
逆に顧客満足度をアップするチャンスじゃ」