【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】
怒濤の如く夏は過ぎていき、お盆の時期を迎えた。
学習塾はここで前半戦が終了し、お盆休みを挟んで後半戦となる。
ここまで獅子奮迅の働きをしてくれていた学生アルバイト講師たちはもちろん、受験生である中学3年生や小学6年生もお休みだ。
お盆期間中の4日間は、自習室も開放しておらず、オンラインのレッスンは何回か入っているだけなので、私だけで十分対応できる。
ちょうど台風の上陸と重なったこともあり、出社しているのは私だけ。
ここまですごい人口密度の中で日々働いていたものだから、誰もいないとずいぶんと寂しい。
お盆の時期なので学習塾に電話がかかってくることもない。
ついつい居眠りしそうになる。
そもそも休み無く働いているのだから私の休日にしてもいいのだが、ここで休日を満喫して気持ちが切れると、後半戦に頑張りを継続できるか不安だ。
というわけで、いつものルーティンをなるべく崩さないようにお盆の時期も過ごすことにした。
実はやりたいことはある。
いつもは忙しさのあまり手が回っていないことだ。
まずはデスクワークの整理整頓。
掃除は毎日行っているのだが、夏期講習会中に扱った資料や授業ノート、報告書などもっとしっかりと整理したいという気持ちがあった。
整理しながら授業ノートの内容などを見返していくと、どの生徒がどこでつまづいていたのか思い出す良い機会になる。
後半戦のレッスンではどこを強化しようかという頭作りが余裕をもってできる。
学生アルバイト講師陣が提出する報告書も改めて目を通すことで、繋がりに気づくことができた。
こちらも後半戦のアドバイスに役立つし、生徒対応の穴のようなものを見つけ、より良いサービスを提供できる材料になる。
この作業だけでも3時間以上。
この夏の頑張りを称えた手紙も生徒一人ひとりに書きたかった。
入会促進のための手段というわけではない。
塾生、一般生問わず、この教室で全力を尽くし勉強してくれたことに感謝したい。
時間があれば学生アルバイト講師にも感謝の気持ちを綴りたいところだ。
他にも、顧問税理士の天海さんともゆっくり話がしたい。
これは以前から計画していたことなので、昼食は天海さんの事務所近くのレストランで直接会うことができた。
「ほう、お盆でも休まず働き続けておるんじゃの」
「ええ、そうは言ってもいつもの仕事のような慌ただしさがないですし、ゆっくりできるので、仕事をしているといった感じではないですが」
「仕事好きがよく口にする言葉じゃよ」
「でも、暇なときだからこそできることって意外に重要だなって感じました。おかげで夏期講習会の後半戦は前半戦よりもサービスの質を高めることができそうです」
「閑散期だからとのんびりし過ぎてしまっては、いざ始まった際には倦怠してしまうケースもあるからの。短期間でON・OFFのスイッチの切り替えが難しいのであれば、休憩時間を多く取りながらでも、こういった時期は毎日少しでも働くというのがいいかもしれん」
「休みなく働くなんて従業員であればブーブー文句言っているところでしょうが、経営者となると休んでペースを乱すことの方が心配になります」
「フランスの哲学者で啓蒙主義を代表するヴォルテール氏の言葉に、
『休息はよいことであるが、
怠慢はその兄弟である』
というものがある。
もちろん休息は必要不可欠じゃが、
メリハリをつけながら、
多忙なときにできない仕事に
取り組むことは貴重な時間じゃの」