2016年、当時の日本銀行総裁である黒田氏の肝いりで日本は初めてマイナス金利政策を導入。
この政策によって預金が積み上がるよりも、社会にお金がどんどん回る仕組みを作ったわけだが、デメリットの面やインフレ率の上昇もあり、2024年4月に至ってついに解除が決定。
これにより短期金利は0.1%ほど引き上げられることになった。
繁忙期を乗り越え、ようやくゆっくりした時間を過ごせるようになった私は、これまでお世話になっている顧問税理士の天海さんと夕食を共にし、気になるマイナス金利解除の余波について話をさせてもらうことにした。
「体調はどうじゃ?」
「ご心配をおかけしましたが、もうすっかり大丈夫です。あれ以来、深酒は禁止としてしっかり睡眠時間を確保するようにしています。健康を維持するための適度な運動も最近さぼりがちだったので、再開しました。そのおかげで以前よりも快適に仕事ができています」
「大きな問題にならずによかったの。それで今度は金利についての心配というわけか」
「起業してここまで、異次元金融緩和という金融政策の中でしか経営経験がないので、今回のマイナス金利解除は不安しか感じていません」
「なぜじゃ?」
「客層は子供のいる若い世代です。持ち家にしてもマンションにしても住宅ローンをして購入している家庭が多いので、住宅ローンの金利上昇で経済的に厳しくなると通塾できる家庭も限られてくるのかなと思いまして」
「確かに各銀行は普通預金の金利を軒並み20倍近く上げておるの」
「20倍ですか・・・・・・かなりの上昇ですね」
「そうはいっても、もともと普通金利など0.001%の微々たるものじゃ。20倍したとて0.02%ほど。実際のところ大きな差はないの。個人の利子所得に限ると影響はまずない」
「なるほど、では借り受けの際の金利はどうでしょうか?」
「住宅ローンについては長期金利の影響ですでに引き上げの動きじゃが、こちらは固定型の住宅ローンの話。現状は全体の7割が変動型の住宅ローンを利用しておる。
変動型住宅ローンは短期プライムレートを
参考にして決められるが、
今のところ据え置きと決めている銀行が多い」
「短期プライムレートですか?」
「企業向け貸入金利も同じように短期プライムレートの影響を受ける。こちらは引き上げにはなっておらん。2016年にマイナス金利導入となった際に短期プライムレートは引き下げとならなかったから、今回の利上げでは引き上げは見送りとなったのじゃろうな」
「ということは、現状であれば問題ないが、今後も利上げが追加で行われていけば住宅ローンへの負担が増すことになるのですね」
「それはあくまでも追加で利上げが繰り返されればという話じゃがな。市場ではそれは難しいと予想しておるようじゃ。貸入金利が上昇すれば企業の利益率が低下してしまう。日本はそこまで景気が良いわけではないからな。実際に日銀がマイナス金利解除の発表をした後でも円安ドル高は加速しておる。
アメリカは日本と逆行して利下げへの舵取りになり、
両国の金利差が縮まるのだから
円高に傾いて然るべきだが、
そうならないのは日本のこれ以上の金融引き締めは
難しいというのが大方の見方なのじゃろう」
「いずれはテナントから一戸建ての学習塾にしたいという希望がありますが、金利が上昇となると厳しくなりますね」
「一戸建てを希望しておったのか、この調子で規模が大きくなれば夢ではないの。ひとまず今回のマイナス金利解除の余波は大きくないことは確かじゃ。問題は今後の金融政策の舵取り具合じゃろう。ここは注視していく必要がある。
さらなる物価上昇・金利上昇となると
さすがに塾費用も値上げしなければならなくなるじゃろうから、
この辺りは覚悟しておく必要があるかもしれぬぞ」