5月も中旬になると中学生は1学期の中間テストの時期を迎える。
中学1年生にとっては初の定期試験だ。
定期試験の重要性を認識させるためには、まず内申点が志望校合格のためにどこまで重要なのかについてしっかりと伝えておく必要がある。
この時期に毎年起こる注意すべき点は、生徒の現状の学力を保護者が的確に把握しておらず、定期試験結果が予想外に悪かったことからクレームが発生したり、最悪なケースとしては退塾意向に繋がる事態だ。
これは初の定期試験となる中学1年生だけでなく、入塾まもない上級生にも当てはまる。
安くはない授業料を支払っているのに思っていたほど成績が上がらないと、生徒以上に保護者の不信感が高まるからである。
しかし、学力はそう簡単には上がらない。
小学生の算数の計算の正答率が悪いのに、中学生の正負の数の計算が素晴しくできる、ということはありえないのだ。
上級生は特に結果が出るまで時間がかかることが多い。
私の学習塾には事務員はおらず、家庭からかかってきた電話については手の空いているスタッフが対応する仕組みだ。
クレーム処理の経験が豊富な私や石川、酒井などがいれば大きな問題にならずに済ませることができるのだが、若手が対応すると逆に炎上することもあった。
今日は顧問税理士の天海さんと共に昼食をとっており、このクレーム処理についての話題になった。
「私も石川も新規プロジェクトを立ち上げたところでなかなか時間がなく、どうしても若手の学生アルバイト講師が電話対応する機会が増えています。クレームとひと言で言っても千差万別で、個々で事情が異なるため対応の仕方を伝授するのが難しいですね」
「電話の対応ひとつでお客様の感情を逆なでしてトラブルになることも珍しくはないからの」
「塾に通わせれば簡単に学力が上がると考えているご家庭も多いんです。オンラインでの家庭教師も増えていますから学ぶ先の選択肢も多く、これでいいのかと悩みやすくもなっています」
「つまり対応を間違えるとすぐに他に移ってしまうということじゃな。しかもそういった悪評ほど拡散しやすいものはないから厄介じゃな」
「本多や井伊などは根がまっすぐなだけに歯に衣着せぬ言い方をして保護者と衝突することもあるんです。講師も一生懸命指導しているので、成績が思うように伸びないからといって一方的に謝罪するのはおかしいと考えているんでしょう」
「クレームだからといって、
相手の言い分を安易に受け入れて謝罪するのは、
さらなるトラブルに繋がることもある。
安易な謝罪によって相手は笠に着て身勝手な主張をし始め、そのために過度な要求に応えなければならなくなる。この事態も避けるべきじゃろう。
謝罪する際には、
まずはご不快な思いをさせてしまった
その点に焦点を当てなければならない」
「謝罪するのも内容が重要なんですね」
「否定的な言葉を使って相手の主張を論破しようとするのも逆効果になるじゃろう。例えそれが正論であったとしてもだ」
「本多や井伊がまさにそのパターンですね。過去のクレーム対応の失敗から学び、今年はどう対応すべきかの研修を実施しようかと考えています。余裕のある今だからこそできることの一つですからね」
「大切なことはお客様にしっかりと寄り添う姿勢じゃ。
また、相手の話を最後まで冷静に聞くことも重要。
すべて話尽くすと
自分の考え方に偏りがありすぎることに
気がつくなどして冷静になることも多い。
研修の際にはそういった点もロールプレイング形式で見せていくのが効果的じゃろう」
「石川や酒井に手伝ってもらえれば、より適切な対応を学ぶ機会を作れそうです」
「クレーム=相性の悪い相手という認識も改善するのがいいぞ。パナソニックを築きあげた松下幸之助氏の言葉に、
『苦情から縁が結ばれる』
とあるからの」