【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】
開校の準備が整い、夏期講習会の受付を開始したものの申し込みがまったくなく、焦りを覚えた私は、天海さんの税理士事務所を訪れていた。
「私が大切なことを見失っている? 天海さん、いったいそれは何のことですか?」
「そうじゃな。まあ、そう慌てることはない、話は落ち着いて茶でも飲みながらにしようじゃないか」
見失っていること…… 何か開校の準備で漏れていることでもあるのだろうか?
いや、いつでも授業を開始できる環境は整っている。チラシも打った。ホームページも開設した。看板も付けた。どこに手落ちがあるのか……
「はじめさんはいろいろと準備で忙しかったからの、何を見失っているのか気づきにくいじゃろう。わしが伝えたいことは2点ある」
「ふたつもあるんですか?」
「まずは1点目。
公庫から300万円の融資を受けているということじゃ」
「融資の件ですか。でもそれは無事に審査を通って、300万円借りることができていますよ」
「借りたものは返済しないといけない。その点をまず振り返っておく必要があるじゃろうな」
そう言って天海さんは返済についての話を改めてしてくれた。
以前もしてくれたものだったが、そのときは借りることができるのかばかりを気にしていて、返済についての詳しい点は右から左に聞き流してしまっていたかもしれない。
日本政策金融公庫からの融資に対する返済についての振り返りは、以下の4つの項目だった。
① 融資を受けた300万円の返済期間は7年間、金利は2%
② 元本の返済は、毎月38,000円
③ 元本返済の据え置き期間は5ヶ月間
④ 据え置き期間は利息分の返済のみなので、毎月5,000円
「ということは、今は5,000円の返済でほとんど負担がない状態ですが、5ヶ月後を過ぎると、元本の返済と合わせて毎月43,000円になるということですね」
「そうじゃ。
5ヶ月を過ぎると
返済額が大きく変わる。
そうなると、
据え置き期間とは
資金繰りも大きく変わってくるじゃろう。
もちろんそれ以外にも開校した教室の家賃の支払いもあるし、光熱費もかかる。はじめさん当面の生活費として200万円の貯蓄が残っておるが、それを切り崩していかねばならんじゃろうな」
確かに今は200万円の貯蓄でなんとか生活している状態だ。しかし、生徒が思うように集まらず、売上がないとなるとそう長くは持たない。
「ポイントはこの据え置き期間の5ヶ月じゃ。
据え置き期間の5ヶ月間で、
事業を軌道に乗せること。
これが重要。それができなければ、返済が滞り、督促状が届くような事態になる。この5ヶ月間は、はじめさんにとって正念場ということじゃの」
「この5ヶ月間が正念場…… そうか、そうだったんですよね。夏期講習会の募集を開始すれば、申込みが殺到するのが当たり前だという環境に慣れてしまっていましたし、費用もお手頃なので、安心しきってしまっていてそこまでの危機感を持っていませんでした。今まで経験したことがないくらい死にものぐるいで取組なければならないはずなのに、どこかに油断があって、いつのまにか受け身になってしまっていたかもしれません」
「勝つのが当たり前じゃったから、負けることに慣れていない。それは別に悪いことじゃないが、負けることから学んだ経験があまりないのじゃろう。だから取り組みにおのずとブレーキがかかっているのじゃよ。厳しいことを言うようじゃが、はじめさんは今、何を必死にやればいいのかわかっておらん」