中学3年生の定期試験であれば試験範囲が狭いので、塾生に得点を取らせることは簡単だとうそぶく塾講師が多く存在する。
確かにこれまで学習してきたことすべてが出題範囲となる受験本番よりも限定された範囲なので対策は立てやすいし、出題問題も予想しやすいのは事実だ。
しかしそれは社会や理科といった科目の話であり、上積みが必要な数学や英語には容易に当てはまらない。
例えば公立の中学3年生2学期中間テストの試験範囲は、二次方程式がメイン、進度の速い学校でも2乗に比例する関数の半ばまで。
どんな二次方程式の文章題が出題されるのかはだいたい予想はつく。
しかし高得点を取れるかどうかの問題は、計算力である。
因数分解のスピードや正確性、√の計算力といった1学期に習った内容が土台にないと得点はさほど上がらない。
数学が伸び悩んでいる場合、もっとさかのぼって中学2年生の文字式や中学1年生の正負の数まで復習し、間違えて覚えている知識を改善する必要があるほどだ。
つまり範囲外の勉強もしなければ高得点は取れない。
これは思っているほど簡単な話ではないというわけだ。
もちろん塾生はそれ以前から鍛えているし、夏期講習会でさらに仕上げているので、応用問題への対応練習だけでも十分なのだが、新入塾生はそうはいかない。
ひとまず出題範囲までレッスンを行いインプットが終了したら、すぐにひたすら実戦さながらのテスト形式のアウトプット訓練。
やはり計算力に課題があるので解くのが遅いしミスも多い。
新入塾生には特に個別にアドバイスを行うのだが、ここで頭ごなしに叱ってはいけない。
「失敗=悪」という認識になると
失敗を恐れてチャレンジする気持ちを
失ってしまうからだ。
失敗は成功のもとの例え通り、そこから何を学ぶのかが重要になる。
萎縮させてしまうような言葉はかけない。
それより大切なのは、では何をすればさらに向上するのかという点だ。
正直、中1・2・3の計算問題のプリントを大量に与えてやらせたいところだが、そうなると負担が増しすぎる。
勉強をやらされている感を強めるのは理念に反する。
あくまでも生徒が主体的に勉強に取り組むように促すことを意識する。
これは顧問税理士の天海さんから、学生アルバイト講師ばかりの組織の中で人材を育成する方法を教わったときに知ったコツだ。
天海さんは南アフリカの実業家イーロン・マスク氏の
『良い人材を育てるためには、
失敗を許容する文化が必要だ』
という言葉を引用していた。
ここで注意しなければならないのは、必要なのは失敗を許容する文化であり、失敗を気にせず放置することではない。
失敗を成功の糧にするためには、
結果を見つめることと
振り返りをすることが必要不可欠である。
どう振り返りをすればいいのか、慣れるまでには時間がかかるのでそれまでは一緒に話し合いながら進めていっていいだろう。
いずれは自分で考え行動し、自分で振り返って改善することで成長していく。
それが自律した人材を育てる第一歩だと私は考えている。
忘れてはいけないのは、「何のためにこの仕事をやっているのか」「この仕事で何を生み出したいのか」といった理念を見失わないでこのサイクルを繰り返すこと。
そうすれば受け身ではなく、積極的に取り組めるようになる。
回り道のようでいて本当に実戦で臨機応変な対応ができる人材を育てるには「自律」を促していくのが一番速い。
生徒はまだ子どもなので具体的にアドバイスする要素が大きくなるが、今後さらに伸びていくためには同じように主体性を持たせられる指導が大切だ。
それができてこそ本当に周囲を驚かせるような成果をあげることができるのだから。