コラム



税理士がサポート!『はじめて起業ものがたり』  「起業って何から始めればいいのか 222 実力主義のメリットとデメリット」

 

今回のポイント
 モチベーションとストレス 

 

 

2025年の梅雨はあっという間に明けて、今は猛暑のまっただ中。

6月から7月にかけ連日のように35℃以上の気温が続いている。

 

時刻は15時。

1日で最も熱い時間帯だ。

光熱費を抑えるため冷房温度は28℃設定にして扇風機をつけている状態のため、とても涼しいとはいえない環境で身体は汗ばんでいる。

 

私は面談室で石川と1対1で話をしていた。

 

状況としては、オンライン部門の責任者である石川の対応に嫌気がさして外部委託しているオンライン講師が立て続けに4人辞めた。

 

まず確認したいのは、4人が辞めたことに対して石川がどう考えているのかだ。

 

 

石川はその質問に少しだけ眉をひそめ、

「業務で成果を出せていないのには理由があります。私はその点を彼女たちに指摘しただけです。改善し、成長したいのであれば素直にアドバイスを受け止めるでしょうし、そうでなければ辞めるという決断をするかもしれません。その選択は個人の問題では?」

 

あくまでも講師としての経験は石川よりもこの4人の方が上なのだが、私の学習塾で成果をあげているのは圧倒的に石川である。

起業してここまでやってこられたのも石川の存在は欠かせない。

 

「塾講師というのは成果主義・実力主義ですよね。年功序列の業界ではないと塾長もそうおっしゃっていましたよ」

 

石川と酒井には入社にあたって確かにそのような内容の話はした。

成果をあげれば同世代よりも多くの報酬を得ることができる仕組みであると伝えてはいる。

それが石川と酒井の入社のモチベーションを高める要因になったのは間違いないだろう。

 

「清洲予備校では25歳という年齢で年収500万円を超えている人もいるそうです」

 

まさかここで石川から競合する清洲予備校の話が出てくるとは思ってもいなかった。

清洲予備校とは交換交流をした過去があり、石川はその際に仲良くなった竹中という社員からいろいろ話を聞いているようだ。

仕事終わりに二人で食事をしているところを見られて仲間たちから距離を置かれたこともあった。

どうやら年収500万円を超えている若手というのはその竹中という男性のことだろう。

 

「生徒の成績を上げ、評判を作り、人を呼んで塾生数を増やす。その成果でキャリアが築かれるのですから、成績を上げられないのは講師の役目として論外です オンライン講師は全国から募集できるので替わりはいくらでもいます。価値観を共有できる人と仕事をした方が早く成果に繋がるのではないでしょうか」

 

その口調は学生アルバイト講師の頃よりも迷いのないものだった。

 

 

成果をあげられないだろうと判断した相手は切り捨てると言っているのだ。

そこには時間をかけて人を育てるという視点はない。

実力主義に傾いた極めて合理的で極端な考え方である。

 

いつの間に石川はこんなにも傲慢になってしまっていたのか。

いや、経営者である私がそう育ててしまったのだ。

 

実力主義に傾倒した結果として

 

他人への思いやりがなくなり、

 

プレッシャーとストレスを

 

与える部署になってしまって

 

チームワークが崩壊している。

 

聡明な石川がその点を見落としてしまっていることに驚いた。

 

成果だけを求める姿勢は顧客にも伝わる。

組織が瓦解してしまい、顧客の信頼を失えば、個人も成果も関係ないのだ。

会社は潰れてしまうだろう。

 

傲慢な人間を生み出すための実力主義では決してない。

 

石川も本当はわかってはいるはずだが、若さゆえに見えなくなっている。

どうすれば気づかせることができるかだ。

 

私は顧問税理士の天海さんから聞いたトヨタ自動車創業者である豊田喜一郎氏の言葉を伝えた。

 

作ってやる。売ってやるではいけない。

 

買ってもらう、作らせてもらっている、

 

という気持ちでなくてはいけない

 

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