【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】
TOKYOオリンピックに盛り上がりつつも、デルタ株の感染拡大が止まらない日本の夏は、いよいよ8月に突入した。
夏期講習会から開校し、当初は不安ばかりを抱えていてバタバタしていたが、ようやくこのリズムにも慣れ、熱心に授業を行うことで生徒とも良好な人間関係を築けるようになっている。
夏期講習会に参加してくれている5人の生徒はみな素直にアドバイスを聞き、実行に移せるタイプだったので、予定の日程で順調に授業は進めているのだが、悩ましい点もある。
それは5人の現在の学力だ。
全員が塾に通うことは初めて。小5の女の子は基礎の基礎から勉強しているが、受験まではまだ1年以上あるのでまだいい。小6の男の子2人は受験まで残り5ヶ月という時点で、志望校を合格するための得点の3割ぐらいしか取れない状態。合格にはほど遠い。中2の女の子2人はバレーボールに打ち込み過ぎていてまったく中学校の基礎学力が身についていない状態で、中1の復習から取り組んでいる。
授業内容としては、とても進学塾とは呼べるものではない。個別指導だから対応できているものの、集団指導であれば間違いなく授業のスピードについてこれていないはずだ。
「わかった!!」、「面白い!!」
生徒たちは授業を受けると興奮気味にそう口にしている。表情も満足げだ。
しかし、それはあくまでもその生徒のペースで授業をしたからであって、同じ時間で扱っている問題数は集団指導の内容の半分にも満たない。
集団指導はややハイペースであっても、周囲のライバルが頑張っているから自分もそのペースについていこうと背伸びをする。結果としてそれが大きな成長に繋がっていくのだ。
個別指導にはそういった刺激がないからどんどんマイペースになっていく。
夜になって電話が鳴った。
小6の男の子の親からだ。授業にとても満足していて、夏休みが終わってもこのまま通わせたいとの希望だった。嬉しい反応ではある。しかし、このペースで進めていても志望校合格は掴めないだろう。
続けてまた、電話が鳴った。
今度は日ごろからお世話になっている税理士の天海さんからだった。私は生徒指導の葛藤について話をしてみた。
「なるほど。しかし、その葛藤はしっかりと目の前の生徒の指導に集中できたことの証拠じゃな。だからこそ生徒も親御さんも満足して通塾したいと言ってきておるのだろう」
「今までは大勢の生徒を一度に対応していたので、ここまで生徒の理解度や演習スピードを把握できていませんでした。むしろ、一定の基準を設けて、この授業についてこれなかったら志望校には合格できないぞというスタンスだったので、把握しようともしていなかったと思います。そこにジレンマを感じることもありましたが、いざこうしてひとりひとりの生徒の状況に合わせた授業を行うと、これはこれで問題があるなと感じています」
「はじめさん、はっきり言っておくが、そうそう理想の生徒は集まらんぞ。それができる生徒だったら大手の進学塾を選んでいるだろうからな。はじめさんの塾を選んだということは、逆に考えるとそういった進学塾に通えない生徒たちということじゃ。
後発企業が成果を出すためには、
こういった大手の進学塾の穴を攻めるしかない」
「穴、ですか。確かに集団指導では対応できないために退塾していく生徒も少なくありませんね」
「そこをしっかりカバーできれば既存の学習塾との差別化も図れるじゃろう。
後発企業が生き残るためには、
差別化をし、
勇気を持ってチャレンジして、
そこで結果を出していくことじゃよ。
これは大きなチャンスではないのか?」