波乱の夏期講習会がなんとか無事に終了した。
怒濤のように押し寄せる夏期講習会の日々に疲労困憊するのは毎年のことだが、今年に限っては例年の数倍疲れた。
理由は私が経営する学習塾の大黒柱:石川の戦線離脱だ。
不慮の事故にあったり、怪我をしたり、病気にかかったわけではなく、仮病のような欠勤である。
ピンチヒッターの山内の大活躍でその穴を埋めることをでき、過去最高入塾率を叩き出すことにも成功したのだが、今後のことを考えると頭が痛い。
山内も起業で忙しいので、いつまでもここで働いてもらうわけにはいかないのだ。
といって石川を引き戻す算段もつかない。
夏期講習会が終了して4日間の休暇を設けたが、夏休み明けの準備でやはりのんびりなどできなかった。
そんな中で一報が届いた。
そこにはとても懐かしい名前が記されていた。
大学時代によくつるんでいた友人だ。
日本の将来に対する危惧や教育の重要性について連日語り合っていた日々を思い出す。
思い返せば「こんなことができる教育者になろう」と一番熱くなっていた時代だった。
友人の中でも特別な存在。
まさに親友だ。
彼は教員採用試験に合格し、兵庫県で高校教師をしていた。
埼玉県と兵庫県はやや遠いものの、新幹線や飛行機を利用すれば数時間で会うことができる。
いつでも会える。
そう思っていたから、会うのがどんどん先延ばしになってしまった。
最後に会ったのはいつだったのだろうか・・・・・・
私が起業したことを喜んでLINEをしてくれたが、直接会うことはなかった。
私が慣れない経営であまりにも忙しかったからだ。
落ち着いたら会っていろいろなことを話そうと思っていた。
しかし、突然の訃報は親友にもう二度と会うことができないことを告げていた。
どんなに忙しいとは言っても、会おうと決めたら会えたのだ。
まさかこんなに早く亡くなるとは考えてもいなかった。
一晩中、酒を吞みながら大学時代を思い出し、笑い、泣いた。
自分の人生において彼はとても大切な存在だった。
しかし、もう会うことはできない。
話すことも、笑い合うこともない。
会っておきたかったという後悔が込み上げてくる。
起業して間もない頃、なかなかうまくいかずに苦しんでいる中、励ましのLINEをくれた友人は彼だけだった。
私は彼に何かしてあげられたのだろうか・・・・・・
気持ちを切り替えられないまま、私は顧問税理士の天海さんの事務所を訪ねた。
どんな相談にものってくれる信頼できる人。
親友を失っても、まだ冷静でいられるのは、親友同然の天海さんがいてくれるからだろう。
「そうか、それは残念な話じゃ。まあ、わしの世代になるとそういった話ばかりになるがの」
「なんだか心の中にポカンと穴が空いた気分です。石川の欠勤続きも多少影響していると思いますが」
「大人になって親友と呼べる相手と巡り会うのは難しいが、実際は親友と呼べる相手に巡り会うことなく大人になるケースもある。知は力なりという言葉で有名なイギリスの哲学者フランシス・ベーコン氏は、こんな言葉も残しておる。
『真の友を持てないのは、
まったく惨めな孤独である。
友人がなければ世界は荒野にすぎない』
とな。親友に巡り会えただけでもはじめさんは幸運じゃったのだよ」
「もう一度彼と今後の教育について語り合いたかったですね、今だからこそできる話があったでしょうし、初心の信念を思い出すきっかけにもなったかもしれません。
親友と一晩中語り明かしたあの情熱が、
多忙すぎる今現在や
これから向かっていく未来を彩ってくれていました」
「そのことを忘れずに生きていくことじゃ。きっと今も応援してくれておるじゃろう。