2025年も残すところ100日あまり。
塾業界にとって最大の繁忙期が近づいてきている。
12月から3月末まではまさに息をつく間もないほどの忙しさ。
激務に次ぐ激務の日々だ。
まあこれは例年通りの話なので講師陣一同覚悟をしているのだが、今年は大黒柱の石川を欠くことになるのが大きな不安点となっている。
助っ人の山内は、もうしばらく起業について勉強したいので私の学習塾で学ばせてほしいと申し出てくれたので、なんとか冬期講習会までは人手不足は解消できる。
対面の個別指導の塾生たちは、山内の他にない面白さや魅力に惹かれて落ち着いてきているが、問題はオンライン生徒の挙動だった。
石川が担当していたオンライン生徒が9月下旬になって一斉に退塾意向。
これまで静かに運営できたのがウソのような荒れ模様である。
それぞれの家庭は明らかに事前に石川から話を受けている節があった。
ただ直接それを口にする保護者はいない。
「もっと子どもにあった塾を見つけたから」
「もっと費用の安い塾を見つけたから」
「志望校合格に向けてもっといろいろな指導を実践してくれる塾を見つけたから」
といったよく聞く理由が退塾の意向となっている。
オンライン指導の業界は、どんどん競合が増えてきて競争が激化しているは間違いない。
「EC市場」(Electronic Commerce)の
「BtoC」(Business to Consumer)市場規模は、
2022年が22.7兆円だったのが、
2023年に24.8兆円、
2024年には26.1兆円と堅調に拡大を続けている。
その中で教育を含めたサービス系の市場規模は7,621億円(2024年)。
市場規模は大きいが、顧客はサービスや価格などを比較しやすいので市場規模拡大に比例してそれぞれの売上が伸びているわけではない。
市場規模が大きいし、
拠点がどこにあっても問題にならない点など
チャンスも大きいのだが、
独自の特色をはっきり示すことができなければ
簡単に埋もれてしまう過酷な世界だ。
インターネットを通じて評判は広がりやすい。
もちろん良い評判も悪い評判もである。
うちは早い時期からオンラインレッスン部門に力を入れてきただけに「先んずれば人を制す」という言葉通り、順調にここまではきていた。
顧客の信頼も得てきたし、実績をあげてきた自負はある。
なので今回初めて大きな挫折と転換期を迎えたわけだ。
返す返すも石川の影響力は大きいと痛感する。
だからといって「ハイわかりました」と退塾を受け入れるつもりはない。
一端穴が空くと一気に流れ出るのが退塾だ。
流れは序盤で止める必要がある。
この状況についても顧問税理士の天海さんにすぐ報告し、相談させてもらった。
もう毎週のように相談させていただき、アドバイスを受けているのだが、天海さんはいつも笑顔で「それがわしの役目じゃから」と快く引き受けてくれる。
「何かあったというのは疑う余地はないじゃろうが、ここは辛抱強く対応するのが肝心じゃの。他にも親身な指導ができる講師がたくさんおるのじゃから、しっかりとその点を伝えていくべきじゃ」
確かに登録してもらっているオンライン講師は全国にたくさんいる。
また、生徒の特徴を一番把握できているのは、これまで指導してきた私の学習塾だ。
そのメリットを絶対にアピールしなければならない。
「悪い流れは行動で変えられるものじゃ。アメリカの小説家ウィラ・キャザー氏の言葉に
『愛が深いところには、
絶え間なく、希望が流れ込んでくる』
とあるからの。生徒への愛情をとことん示しなさい」