コラム



税理士がサポート!『はじめて起業ものがたり』  「起業って何から始めればいいのか 243 部下を信じて起用し続ける心構え」

 

今回のポイント
 信用と信頼の違い 

 

 

新規で正社員採用した伊達が私の学習塾で働き始めて1週間が過ぎた。

 

そろそろ生徒たちも伊達に慣れてきたかなと期待しているのだが、相変わらず「石川先生」、「山内先生」という別の講師への思いを口にしている。

 

石川はとても生徒思いで、女性ならではの丁寧さがあり、キャリアウーマンのオーラもあって慕っている女子生徒が多かった。

一方で短期間ではあったもののベテラン講師の山内は、常に生徒を笑顔にするような冗談がうまく、発言も行動も大胆で、「学校にも塾にもいないようなとても面白い先生」ということで抜群の人気を誇っていた。

 

そのふたりと比較すると伊達はあまりに普通だ。

普通すぎるといってもいいだろう。

生徒が何か物足りない気持ちになるのもよくわかる。

 

 

別に普通がダメというわけではないのだが、伊達を採用するにあたってはスカウトエージェントの高い成功報酬や、給与として支払う人件費のために貯金の大半を割いている。

石川や山内以上に活躍してくれないと大切な資金をどぶに捨ててしまったようなものだ。

 

私は自分のひとを見る目を信じているので、伊達の採用を後悔する気はないし、ここからの巻き返しを期待はしているのだが、実際の生徒の反応を見ていると、その気持ちも日に日に弱腰にはなってきていた。

 

複雑な心境の中、小学6年生の中高一貫校受験がスタート。

 

オンライン生のひとりは千葉県の御三家のひとつを第一志望にしており、その推薦受験が12月1日に開催された。

推薦受験といっても4科目の試験は普通に受ける。

合格発表は翌日の12月2日。

 

結果は不合格。

 

40名という定員の枠に500名以上の受験者がおり、倍率は13倍を超えている。

合格枠は狭いし倍率も高いので、保護者は受験の雰囲気に慣れるためのもので、合格できればラッキーという気持ちですと話はしていたが、実際に初めての受験で不合格を突きつけられると穏やかな心境ではいられない。

 

同じ学校の本試験は1月21日。

こちらが定員の枠が広く、倍率も通常ということで本命だ。

その前後には他4校の受験も控えている。

 

ここから奮起して50日後の受験に備えてほしいところなのだが、肝心の生徒自身がショックを受けて意気消沈してしまった。

担当講師の報告によると涙を流して泣いており、レッスン中の集中力が著しく低下しているとのことだ。

いろいろとアドバイスしてみたようだが効果はなかったと残念がっている。

 

 

もともとの担当は石川だった。

石川がいれば奮起させることもできたのかもしれないが、それはもう不可能である。

 

その話を聞きつけて伊達がその生徒に学習面談をしたいと申し出てきた。

不合格となった生徒とは一度のレッスンもしていない。

逆効果になれば受験を諦める最悪な事態も想定される。

 

私は悩んだ結果、ひとまず顧問税理士の天海さんに相談することにした。

 

「確かに伊達は都内の受験指導を長く経験してきた実績があります。こういうケースの対応方法も熟知しているのかもしれません。しかし、この1週間、接してきた生徒の反応はあまり良いものではなく、信用しても大丈夫なのかと不安です」

 

「しかし、はじめさんはその手腕を買って採用を決めたのじゃろう。力を発揮するには絶好の機会ではないか」

 

「そうですが、あまりにも難しいケース過ぎて・・・・・・」

 

「高名な精神分析学者であるアルフレッド・アドラー氏の言葉に相手への信用についてこう述べておるぞ。

 

信用するのではなく信頼するのだ。

 

信頼とは裏付けも担保もなく相手を信じること。

 

裏切られる可能性があっても相手を信じるのである

 

とな」

 

「信用して起用するというよりも、信頼して伊達を起用するということですね」

 

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