冬になりあっという間に年が明けて「2026年」に突入。
世間は年末年始でのんびり帰省ムードだが、塾業界はまったく別だ。
2025年と2026年の節目などない。
大晦日も正月もなく、受験生の特訓講座で汗だくになっている。
冬期講習会も後半が再開され、残すところ1週間弱。
1月9日からは3学期の学校生活が始まる。
現在最優先項目は、「受験生の仕上げ(中学受験)」と「冬期講習会一般生の入塾活動」の2点。

特に問題なのは入塾だろう。
2025年年末までの入塾はゼロ。
とにかく難しい時期なので入塾に期待するのが酷なのだが、担当の信任講師である伊達が入塾100%を目標に掲げているだけに例年以上に注目されている。
伊達はそれぞれの講師に対し、どの生徒にどのような声がけをするのか細かく指示をしていた。
当初は素直に従っていた本多らであったが、講習会前半でまったく成果が出なかったことで、面倒な虫が騒ぎ始めている。
特に細かいことを気にしたがらない体育会系の本多は、年明けの後半に入って好き勝手な言動が増えてきた。
とはいっても問題のある言動ではない。
生徒のいいところは褒め、改善すべきは注意する。
ごくごくあたりまえの対応だ。
後半戦2日目の夜。
生徒が全員帰宅してから講師陣による恒例の打ち合わせ。
伊達と本多が真っ向からぶつかった。

褒め方といってもいろいろな褒め方があるし、改善点の注意の仕方も同様だ。
若い本多にとってはそこの差は問題視していないようで、大切なのはタイムリーな声がけという信念があった。
しかし、伊達は自らの指示を譲る気はない。
生徒へのアプローチの内容によって、三者面談からの布石がすべて崩れ去り、例年と変わらぬ低い入塾率になってしまうからだろう。
本多はすぐ感情的になってしまうタイプなので、表情を真っ赤にして伊達に反論した。
さらに若い井伊も同じような表情で伊達をにらんでいる。
どうにもチームワークはバラバラだ。
ひとまずここは私が割って入り、担当者である伊達の指示にしっかり従って対応をしていこうと呼びかけた。
本多は不満げだったが、このままいくと作戦をぶち壊した自分のせいで入塾目標を達成できなかったと言われる可能性を考え、しぶしぶ引き下がった。
従って冬期講習会終了時に目標達成していないとなったら大反発するのは必至である。
講師陣が退社した後、新年の挨拶とあわせて今日の報告を顧問税理士の天海さんに電話で伝えることにした。
「どうやら伊達さんの戦略の意図が他の講師陣には伝わっていないようじゃな。
チーム内で戦略の意図が徹底されていない
のであれば、期待するような成果は望めまい」
「はあ、そうですね。しかし、伊達も言葉足らずで、その指示通りの声がけをしていくと生徒がどうなっていくのかまでは明かしていないんです。本多らは手ごたえを感じていないこともあり、徹底できていないですよ」
「明かさないのも何かしらの意図があるのかの? まあどちらにせよチームがバラバラでは勝ち負けは最初から決まっているようなものじゃ。サッカーブラジル代表で神様とも呼ばれているジーコ氏の言葉には、
『組織にとって個人の能力は大切である。
しかし、それ以上に勝敗を分ける
大きな原因となるのは、
チームワークなのだ』
とあるからの。ここまできたのじゃから、最後まで一丸となって入塾対応をしていく必要があるぞ」
「本多と井伊には明日の朝改めて話をします。それにしても入塾率100%なんて目標は現実味がなかったですね、こりゃ講習会後も一悶着ありそうです」

