2026年もあっという間に3月を迎え、春の陽気が漂ってきた。
塾業界にとっては新しい年度(4月)に向けたラストスパートの時期。
中学3年生の公立高校受験。
春期講習会の募集活動と新年度の塾生獲得。
疲労困憊、講師陣はみなヘトヘトの中だが、余力はすべてここに注ぎ込むことになる。

酒井、本多、榊原、井伊といった古参の講師陣はいつも以上に春期講習会に向けて気合いが入っている様子だ。
外様の伊達が冬期講習会からの入塾で大きな成果をあげたことが刺激になっていて、熱気が凄い。
そうかといって伊達に頭を下げてアドバイスを受けたり、入塾促進のコツを聞けないところが古参講師陣の無骨なところだろう。
特に伊達と同じ正社員という立場である酒井の鼻息が荒い。
なにせ酒井の担当した一般生は誰ひとり入塾していない。
プライドはひどく傷ついているに違いなかった。
そんな矢先に驚くべきニュースが飛び込んできた。
大手オンライン家庭教師「M」が自己破産を申請したというのだ。
令和5年には年商30億円を計上するほどの規模でうちとは比べものにならない全国規模の企業である。
それが突然の破産。
とても信じられない。

私は早速、顧問税理士の天海さんに電話をした。
「わしもニュースを見たが、これはひどいの。講師への報酬未払いが3ヶ月続いておる。さらに直近は資金繰りの悪化をカバーしようと授業料も前払いさせており、被害はそうとう広がっておるの」
「全国規模のオンライン家庭教師ですからね、登録している講師も4万人を超えるとか。しかもレッスン中に事業停止を知らせるメールが一斉に流れたようですね。講師も生徒も保護者も大混乱だったことでしょう」
「赤字に陥った背景には過剰な設備投資や広告支出があるそうじゃ。もちろんそれだけが問題だとも思えぬが・・・・・・
どちらにせよオンライン家庭教師という
業界全体を揺るがす事態じゃな。
業界の信頼低下は避けられまい」
「実はオンライン生の家庭からすでに2件ほど問い合わせの電話をいただいています。こちらの経営は大丈夫なのかという内容です。やはり不安に感じている家庭は少なくなさそうです。口には出さないですが講師の中にも不安を感じている者はいるでしょう」
「報酬未払いが1ヶ月でも起これば間違いなく赤信号じゃな。だが、はじめさんの学習塾は今のところ問題ない経営状態じゃ。報酬未払いなど起こるまい」
「そうですね、その点は心配していないです。まあ、伊達の人件費は安くはないですが、それだけの成果もあげてくれていますしね。問題は今後の募集活動への影響です。大手のオンライン家庭教師でこういうことが起こるということは、中小規模のが個人学習塾だとどうなのか・・・・・・ 消費者はかなり慎重になるでしょう」
「ここは迅速な対応が大事になるじゃろう。
生徒や保護者に対して、
はじめさんの学習塾の経営状態は
問題がないとしっかり伝えていく必要があるし、
もちろん従業員も安心させなければならない。
日ごろのはじめさんの取り組みを見ているから不安が広がることはないと思うが、言葉にして伝えておくべきじゃの」
「書面だけでなく、オンライン生についてはレッスン時にご家庭にも直接説明していきます」
「日清食品の創業者である安藤百福氏の言葉に、
『あの経営者の製品ならば
安心だという信用を得よ』
とある。今後物価高や少子化・人手不足の中、淘汰されていく塾業界で生き残っていくためには、こういう事態の中でしっかりと信頼を勝ち取っていくことが重要じゃな」

