【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】
年末も迫ってきたタイミングで、確定申告についての説明を天海さんの税理士事務所で受けている。起業した際にも確定申告の説明を受けてはいたのだが、あの頃は年末のことより目先のことでいっぱいな状態だったため、ほとんど頭に残っていない。天海さんはそのことを見越して、わざわざ時間を割いて説明してくれていた。
「天海さん、青色申告しておくと控除額が大きくなるということはわかるんですが、3年間の損失の繰越って何ですか? 株の取引をして損失を出したとか、そういうケースのことでしょうか。だったら自分には無縁ですよ。株取引をしているほどの余裕がない1年でしたから」
「確かに株式等譲渡所得の損失も確定申告しておけば3年間繰越ができるのじゃが、それだけじゃないぞ。青色申告の損失繰越は、事業所得で赤字が出た場合にも対応しておる」
「事業の赤字ですか・・・・・・」
赤字と言われても、何か釈然としない。最近は塾生が増え、学習塾の売上は確実に伸びているのだ。赤字経営という認識はなかった。
「そうじゃ。この1年間の売上から、経費を引いたらマイナスになるじゃろう。そのマイナスを埋めるために貯蓄を切り崩してきたのじゃからの。教室を整備するのにも、借りるにもいろいろと資金を使ったことは覚えておるじゃろう。毎月の教室の光熱費だって経費の一部じゃ」
「そうか、経費を引いて考えるんですね。そうなると起業1年目は準備にかなりの資金を使っているから赤字になりやすいのか。言われてみるとトータルではマイナスになりますね」
「しかし、経営は堅調に売上を伸ばしておるし、来年は黒字化できる。もし今年200万円の赤字じゃったとして、青色申告していなければ、来年はその黒字分に税金が課せられる。じゃが、
来年200万円の黒字になったとすると、
青色申告しておけば、
今年の200万円の赤字と
相殺されてゼロになる。
そうなれば来年黒字化しても税金がかからないというわけじゃ」
「それはかなりの差ですね。赤字でも確定申告をしておいた方がいいということなんですね! 3年繰り越せるということは、来年50万円の黒字で、再来年も50万円の黒字で、3年後100万円の黒字でトータル200万円の黒字であれば、すべて今年の赤字で相殺されるってことか・・・・・・」
「まあ、計算上ではそうじゃが、実際にそうなった場合、それだけの利益で生活していけるかの?」
「いや、厳しいですね。貯蓄も完全に底を突いて生活していけない状態になっていると思います。そうなると来年で今年の赤字分をペイできるくらい成果をあげる必要があるということですね」
「そうじゃの。もし来年300万円の黒字じゃったとしても、今年の損失繰越分と損益通算すれば100万円に税金が課せられることになるから負担はかなり軽減できるじゃろう。しかも青色申告は控除が大きいからの、そのケースだと所得控除を加味すれば課税対象はほぼゼロじゃ。
このように赤字であっても
青色申告しておくことで、
その後の節税に
大きな影響を及ぼすことになる」
「もし自分ひとりで起業していたらと考えるとゾッとしますね。自分だけだったら税金の仕組みも知らないことが多すぎて、いろいろと損をしていたでしょう。もしかするとそれで経営が立ちゆかなくなっていたかもしれません。天海さんという強い味方がいて、とても助かります。
起業する際は
絶対に専門家に
相談しておいた方がいいですね!」