【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】
2021年もいよいよ師走に突入。2022年ももう目前に迫ってきた。塾業界にとっては最も重要な時期を迎えることになる。ここから4月まで、冬期講習会から3学期、そして春期講習会を経て新学期とあっという間に4ヶ月が過ぎ去っていく。年度末に向けた締めと同時に、年度開始を順調にきれるかどうかはこの4ヶ月にかかっていた。しかし・・・・・・
「おかしいな、身体が重いぞ・・・・・・」
自分の身体が重く感じるだけではない。関節も節々が痛いし、呼吸も荒い。数日前に喉が痛いという自覚症状はあったが、栄養ドリンクを飲んでなんとかしのいできたが、これは本格的に体調が悪化してきたかもしれない。体調管理も徹底してきたが、さすがに開校してから1日も休まず働き続けてきたことで蓄積した疲労が限界に達している可能性がある。
「まずいな。これから正念場を迎えるというのに、この状態で乗り越えられるだろうか?」
大手の学習塾に15年間勤めていたが、体調悪化で授業に穴を空けたことはほとんどない。数回は体調不良で休みを取ったこともあったが、他の講師がカバーしてくれたので問題はなかった。しかし今は違う。独りで旗揚げして、独りで戦っているのだ。自分が倒れた場合、それをカバーしてくれる人はいない。あまり問題視してこなかったが、ここまで必死にやってきて、そのリスクを実感できるようになっていた。
午前中は病院に行き、診断を受けると風邪という症状だった。疲労による免疫低下もいなめないらしい。
頼る相手は税理士の天海さんしかいない。
「しっかり睡眠をとって、栄養のあるものを食べなさい。授業が開始されるまではなるべく休んでおいた方がいいじゃろう」
電話で状態を伝えると、天海さんは優しくそう答えてくれた。
「今年の確定申告の準備や状況確認までしていただき、ここからの重要性を改めて再認識した矢先にこの状態とは情けない限りです。体調管理の重要性についても以前説明を受けていたのに・・・・・・ 頭の中は、自分には起業して独立し成功させられるほどの力がないのではないかという思いばかりが駆け巡っています」
「そうか。ずいぶん気弱になっておるようじゃな。スタンフォード大学の心理学者、キャロル・ドゥエック教授の話では、同じ能力の持ち主でも、マインドセットによって発揮できるパフォーマンスは異なるそうじゃ。自分で自分の限界を作ってしまうような
固定型のマインドセットだと、
疲れたからもうダメだと考えてしまう」
「確かにかなり消極的になってしまっています」
「家康公は天下を治めることに成功したお方じゃが、得意絶頂のときもあれば、満身創痍で心が折れかけたことも何度もある。その家康公の言葉に、
『人間は健康でありすぎたり、
得意すぎたりする時にも
警戒を要するのだが、
疲れたおりの消極性も
また厳に戒めなければならない』
というものがあるのじゃ。誰にでも弱気になるタイミングはくる。疲労から消極的になってしまうこともあるじゃろう。そこでどう気持ちを切り替えられるかが重要じゃ」
「どう切り替えればいいのでしょうか?」
「できないと決めつけるのではなく、
まだできないと考えることじゃ。
まだのひと言を付け加えることで、いずれできるようになるという前向きな気持ちになれる。自分の能力は努力によって変化するのだから、
自分はまだそのレベルにないけれど、
いずれできるようになるという
成長型マインドに切り替えられるぞ」