【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】
春期講習会も目前に迫り、募集活動のため、毎朝のようにポスティングを行い、学校近辺でハンディングを行う毎日になった。もちろん塾生への授業は毎日あるし、自習室も開放している。さらに同時進行で学生アルバイト講師の研修をしていくのだから、時間がいくらあっても足りない。
時間管理をより厳しくするようにと顧問税理士の天海さんからアドバイスを受け、前日の夜には翌日のタスクを見返し、イメージを強く持って朝を迎えることで、分刻みの行動にも慣れてきた。今では時間通りに研修を終了している。
まだ補いたい点はいくらでもあるのだが、時間との兼ね合いもあり、アルバイト講師には研修を受けつつ、実際に生徒に関わってもらうことにした。授業をして独り立ちするのは春期講習会からになるので、その前に生徒への顔見せをしておきたかったし、自習室の管理をしながらの質問受けで指導の感覚を養っていきたかったからだ。
いろいろなトラブルが起こるリスクもあったのだが、事態は意外な方向へと進んでいった。2人の女子学生への生徒の反応がすこぶる良かったのだ。2人とももともと表情も柔らかく、ファッションもメイクも今どきの若者という感じで、おっさんの自分よりかは生徒の受けがいいかなとは思っていたが、予想以上だった。
実際に自分ひとりで自習室管理をしていた頃より、5倍以上の質問が2人のアルバイト講師に殺到している。男の子は逆に緊張して質問しにくいようで、隙を見て自分のところに質問に来るのだが、女の子たちは率先して接近していく。もともと体育会系の女の子たちが多いので、そのパワーは凄い。
2人とも圧倒されることなく笑顔で対応できているのは、さすが年齢が生徒に近いだけのことはあるなと感じたし、生徒が積極的に来てくれているのでとても楽しそうに働いているのが印象的だった。なにか自分にはない眩しさのようなものがその光景にはあり、逆に自分が悔しい思いをしていることに驚いた。
生徒たちが帰宅する際には預かっていたスマホを返却するのだが、2人と一緒に写真を撮りたいとの声が毎回ある。これは自分にはまったくなかった反応だ。それはさておき、この写真をInstagramにあげていいかと生徒に聞かれた。こういったケースが初めてだったので、一度保留。天海さんに確認してみることにした。
「そうじゃな、講師と生徒がSNSを通じて交流するのはトラブルの原因になるから禁止すべきじゃろう。ここは周知徹底しておいた方がよいぞ」
「では、生徒自身が自分のInstagramにこの写真をあげるのはどうなのでしょうか?」
「2人のアルバイト講師がOKであれば、問題なかろう。先生や講師との写真はSNSに溢れているからの。それほど注目されるとは思えぬが、
友人関係にはじめさんの塾を知ってもらう
いい機会になるかもしれぬ」
ということで、2人に確認したところ、特に問題ないという回答だったので、生徒が自分のInstagramに自分の写真をあげる分には許可した。ただし、2人のInstagramを探したり、フォローすることは禁止というルールを設けた。天海さんの指摘通り、
ここの線引きははっきりさせておかなければならない。
あくまでも講師と生徒の関係なのだ。
翌日、この生徒がそのInstagramを自慢げに見せにきた。なかなかよく撮れている写真だなと感心していると、見るのはそこじゃないと言われ、写真の下を見てみると、なんと「いいね」が400件を超えている。わずか1日でだ。半年以上経営してきて、私の塾の公式Instagramのいいねは50件あまり・・・・・・。しかもそのコメント欄も確認させてもらうと、「いいな、うらやましい!」や「私も春期講習会に参加したい!」という内容がかなりある。
これは最強の口コミ術なのではないだろうか?
と私は唖然とした。