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税理士がサポート!『はじめて起業ものがたり』 「起業って何から始めればいいのか57 部下が大きく育つ好機を見逃さない」

【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】

 

今回のポイント
 啐啄同時 

 

 

2022年度の新学期もついに始まった。私の起業した学習塾は当初目標としていた塾生数をクリア。これでひとまず少しのんびりできるかなと安心していた矢先に思わぬ出来事が起こった。

 

「ほう、それで慌てて電話をかけてきたということかい」

 

電話をかけた先は顧問税理士の天海さん。いつも妙案を授けてくれる心強い相談相手だ。

 

「はい。まったく予想していなかったのでちょっと驚いてしまって・・・・・・ 以前に大手の進学塾で働いていた際にも科目主任として多くの若手の育成に携わってきたのですが、こういうケースは初めてです」

 

「ふむ。では、改めて話を整理しようかの。2人いる学生講師さんのひとりが言い出したことということじゃな」

 

 

「名前は石川です。もうひとりは酒井といいます。酒井からは特に要望はないので、2人で相談してからの提案ではないようです。あくまでも石川単独の要望ということになります」

 

「それで、新学期に実施されたテスト結果にショックを受けたというわけか」

 

「今回の春期講習会には石川の人柄を慕って入会したといっても過言ではない中3の女子生徒がひとりいるのですが、思っていたような得点が取れずに石川に泣いて報告してきたそうです。石川もかなり親身に対応してきていましたから、得点うんぬんということよりも、大事な生徒を泣かしてしまったことにショックを受けたのだと思います」

 

「初めてのアルバイトで、初めての指導じゃから、持ち生徒にかける情熱もひとしおなんじゃろうな。そこで石川さんは、はじめさんに何と言ってきたんじゃ?」

 

「涙を流しながら悔しいという気持ちをぶつけてきました。春期講習会から勉強をして、4月最初の学力テストで結果を出すのは、どう考えても難しい話なんですが、それを聞いても彼女はまったく納得していません。もっと研修をしてほしいと。こんな強い主張のできる学生だったとは思っていなかったので、それも驚きです」

 

「学生さん側から研修をしてほしいと頼まれたのは初めてのことじゃな」

 

「ええ。これまではなるべく研修に割く時間を短くしてほしいという雰囲気だったので、その急変ぶりに驚きました。ただ、こちらも研修時に人件費が発生しますし、時間も割かれるので、そう簡単に増やすというわけにもいかず、一端保留しています」

 

「しかし、そんな時間は確保できるのかい?」

 

「生徒が帰宅した後の夜に研修してほしいという要望です。深夜の12時まででも毎日やりたいと。しかし、その時間帯は深夜料金でコストも高くなるから厳しいと伝えると、そこは時給が発生しなくてもいいと言っています。無給でいいので、指導力をつけてほしいと」

 

「なるほどの。ずいぶんな覚悟じゃな」

 

「どうしたものでしょうか?」

 

 

「禅宗には

 

『啐啄同時』

 

という言葉がある。鳥の雛が孵化する際に、卵の内から殻を出ようと動き出すのじゃ、母鳥はこの好機を見逃さずに外側から殻をつついて雛が外に出るのを手伝う。

 

教わる側と教える側の呼吸が

 

このように合ったタイミングは、

 

大きく育つ絶好の機会なのじゃ。

 

今までは受け身一辺倒だった学生講師が、打って変わって積極的になっている今がまさに啐啄同時の好機ではないかの」

 

「彼女が指導者として成長する大事な機会ということですか。研修をしてもいつもの数倍の効果がありそうな気がしてきました。そうなるとみすみす見逃すわけにはいかないですね。なんとか工夫して、彼女の要望に応えられる環境を整備してみます」

 

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