【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】
塾生数も順調に増えてきたため、大学生をアルバイト講師として雇用することに決め、学生が住んでいるだろうマンションなどに重点的にポスティングを行った結果、かなり早い段階で5人の学生の申し込みがあった。すぐに面接を行ったのだが、問題はどのくらいの人数を採用するのか、だれを採用するのかという点である。
「天海さん、さすがに一人の採用というのは絞りすぎでは?」
「現状のメンバーであればの話じゃよ。経験者の授業給はいくらの設定じゃ?」
「幅はもたせておいたのですが、他の個別学習塾とのバランスも考慮して経験者は2,000円で、未経験者は1,500円にしています。準備や片付け、報告、研修については業務給として経験者は1,500円、未経験者は1,100円という設定です」
「3年生や4年生などはシフトに入ってほしいときに入れないで、その時給。しかも4年生は1年も経過する前に辞めることは確実じゃ。一方で2年生であれば長く続けられるので、最初にしっかり研修しておけば毎年同じ研修を繰り返す必要がなくなる。しかも人件費は安く抑えることが可能。さらにたくさんシフトに入れるので、活躍も成長も期待できる。それなのに3年生や4年生の都合に合わせてシフトを組んでいたのではもったいないというものじゃないのか」
「確かにそうですが、2年生の女子学生が戦力として本当に計算できるのかは未知数です。研修にかなりの時間を割くことになると思います」
「研修の時間帯は、どちらにせよ生徒が塾に来られない時間帯じゃろ。大きな問題はあるまい。実際の授業にも見習いとして早めに立ち会わせることになるじゃろうが、こちらは業務費としての支払いで充分じゃろう。
何が授業給に該当するのか、
何が業務給に該当するのかは
明確に示しておく必要があるじゃろうな。
労働基準法第15条には、使用者は労働契約の締結に祭し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならないとある。
こちらについては
事前に雇用契約書を作成し、
交付しておく必要があるの」
「そうか、では、実際に研修を行う前に、業務給が発生する項目をしっかり定めておかなければなりませんね。私の授業を見学するだけであれば、授業しているわけではないので授業給でなく、研修の一貫として業務給での対応になります。どんな細かい業務があるのか事前に確認できれば、学生も安心して働けるでしょう」
「ただし、学生さんがひとりだけというのは心許ない。2人雇うのであればできれば同時に行うのが効率的じゃしの。ここはその女子学生の友人などに声をかけてもらうというのはどうじゃ?同じ2年生で、未経験者であれば同じ時間帯に研修を行い、同じ内容で進めていくことができる。正式に授業を担当する際にも、どちらかが休むことになっても、どちらかがシフトに入ってくれれば現状は対応できるじゃろう」
「たしか彼女、面接のときには、こちらの駅周辺のマンションに住んで同じ大学に通っている知り合いも多くいると話をしていましたね。もしかすると一緒に始めてみたいという友人もいるかもしれません」
「年間の収入が103万円までであれば税制上の優遇措置がある。そこまであれば親の扶養控除が外れることはないし、控除分を差し引いて支払うべき税金もなくなる。1人だけの雇用であれば103万円を超える可能性もあるが、2人でシフトを組めばうまく調整できるのでその心配もあるまい。その点も伝えておくとより積極的に友人を誘ってくれるかもしれんな」