【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】
実際のところ、塾講師を長く勤めてきたが、経費どのくらいかかるのか気にしたことがない。賃貸料にしても、分校の教室長であればある程度把握していたかもしれないが、自社ビルの本校の教室長しか担当していないので、家賃がかかるという認識すらなかった。
教材費や光熱費などを年度の初めに一括して支払ってもらっていたが、生徒数や規模に応じてどのくらい必要なのかも知らなかった。人件費と広告費にかなりお金をかけていたという話は聞いたことがある。しかし、その割合も知らない。
「これだけ長く勤めてきたのに、募集の仕方と授業の仕方しかわかってないんだよな」
そう考えてみると、もっと先のことを考えていろいろなことに興味を持ち、直接調べておくべきだった。当時はまさか自分が独立するとは考えていなかったので、完全に塾長や事務任せにしていたことが悔やまれる。1年でもいい。1年でもいいから、自分が起業することを想定して学習塾事業に関わっておけば、もっと手際よく準備を進められただろう。
「しかし、後悔先に立たずというからな。終わったことを悔やんでも仕方がない。大雑把だけど、起業資金にどのくらいかかるのか計算してみよう」
まずは何にお金が必要になるのかということになる。
① 授業を行う教室の賃貸料、敷金礼金、仲介手数料
② 教材や事務用品、机や椅子などの備品費
③ 人件費
④ 広告宣伝費
⑤ 水道光熱費
⑥ 通信費(電話代、インターネット料金)
「ひとまずこんな感じか。③の人件費は自分ですべてやるので、しばらくはかからないな。④の広告宣伝費はかける必要があるだろう。フランチャイズだったら名前が知れ渡っているから募集もしやすいけど、いきなり個人塾となると、まったく無名だからうまくアピールしていかないと生徒が集まらないからな・・・・・・」
そう考えると効果の大きいチラシは外せない。近所については自分でポスティングをやる必要があるだろう。今の時代であれば、ホームページを作成し、さらにネット広告も利用していくことになる。看板もつけなければならない。
広告宣伝費はとりあえず50万円としよう。
教室はマンションタイプか、テナントタイプでかなりの違いがある。ここは要検討になるが、月に10万円前後といったところだろう。テナントタイプになると15万円はかかる可能性がある。敷金・礼金・仲介手数料だけでも半年分は契約時に払うことになるだろうし、実際に授業を行うためには内装工事も必要になる。
賃貸料などは150万円くらいだろう。
教材は生徒数に応じて発注すればいいので在庫がかさばる心配はないが、事前にある程度そろえておく必要がある。パソコンや固定電話、空調機器、そして机や椅子。
備品費は100万円は少なくともかかりそうだ。
「そうなると、マンションタイプで起業した場合、
300万円あれば可能だな」
そう呟くと私は慌てて預金通帳を探し出した。貯金と退職金で足りるのではないかという希望が湧いてきたからだ。
「え?これしか残ってなかったっけ・・・・・・」
通帳を確認すると、残高はおよそ200万円。100万円は不足している。しかもこれをすべて費やしたら1文無しの生活になってしまうのだ。
そう考えると200万円~300万円は足りないことになる。
退職した後で思い切って羽根を伸ばして日本一周旅行をしていたので、ずいぶん貯金が減ってしまっていた。まさかこんなに資金が必要になるとは予定しなかったのだ。
つまり天海さんが話をしていた「融資」を受けなければ、学習塾の起業はできないということだ。収入が一切ないこの生活で、はたしてどのくらいの融資を受けることができるのだろうか?明日はこの点を天海さんに相談してみよう。