【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】
いよいよ1学期の定期試験が目前に迫ってきた。学習塾である以上、成果は必ず求められる。近郊には他にも多くの学習塾があるし、今の時代はオンラインでの受講も可能なので勉強する方法は選択肢が多い。成果が出ない塾に通い続ける意味はない。早々に見切りを付け、簡単に他に移ることができる。だからこそ目に見えて成果を実感できる定期試験は絶対に成功させなければならない。
この時期の定期試験は新学期まもなくということもあり、意外に試験範囲は短い。準備はしやすいし、数学は計算分野なので得点もとりやすい。中学3年生にとってはここから高校入試までの期間の中で、数学の自己最高得点を取れるとしたらこの定期試験をおいて他にはない。もちろん平均点も上がるのだが、大事なのは素点だ。素点が上がれば、成長している実感が生徒には湧いてくるだろう。退塾意向の悪い雰囲気は一気に払拭できるのだ。
ポイントはとにかくミスを多く誘発させるような問題をしっかり乗り越えさせること。ふたりの学生アルバイト講師にも、今回の定期試験の注意点は研修時に徹底して伝えてきた。そこさえ攻略できれば、後はしっかり演習して解くスピードと正確性を高めておけば高得点は取れる。
問題は生徒自身がどこまで自分に厳しくなって解き直しができるのかという点だ。自習室も利用しているが、やはり最後は家庭学習の充実ぶりで仕上がりは決まってくる。こちらは各家庭への電話掛けを行い、家庭学習でも目標と緊張感を持って取り組めるような環境になってきていた。今までの定期試験対策以上に今回の対応の質が高まっているのは確かだった。
それでも自分についつい甘くなってしまう生徒はいる。解き直しが徹底できていない生徒は、残念ながら結果は予想を下回ってしまう。そうなると退塾意向の雰囲気がまた蔓延する危険性があった。
それでは、これ以上自分たち講師にできることは何があるのだろうか?
顧問税理士の天海さんの言葉をいろいろと思い出してみる。そういえば、以前にこんな話をされていたことがあった。
「人の心理には、
返報性という特徴がある。
例えば、好意の返報性であれば、
相手から受けた好意に対し、
好意で返したくなるということじゃ。
相手に好意を持って欲しいと思ったら、まずは自分が相手の喜ぶことをする。こうしていくことで良好な人間関係は築かれるのじゃよ」
この話を生徒たちのやる気に繋げていくことはできないだろうか。講師陣が常に笑顔で接し、頑張っている点を褒めることで、生徒たちも笑顔で勉強に取り組むことができるようになるはずだ。それは徹底する必要がある。しかし、さらなるやる気を引き出すには、ここはもう一歩踏み込んだ対応が必要になるかもしれない。
よし、ここは手紙作戦を実行しよう。学生アルバイト講師と自分の3人で担当生徒を分け、定期試験に向けた最後の準備を奮起してもらえるように手書きの手紙を書いて手渡そう。SNSだ、LINEだ、といった
ネット上のコミュニケーションが
メインになっている現代において、
アナログの手書きの手紙は
インパクト充分だし、
何より気持ちがダイレクトに伝わりやすい。
ここまで応援してもらい、期待されているのであれば、自分ももっと頑張ろうという気持ちに生徒はなってくれるはずだ。半ば強制的に解き直しを取り組ませても、気持ちが乗っていなかったら効果は半減である。ここは生徒のやる気を高めることのできる手段を効果的に用いていこう。