【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】
独立して学習塾を始めるのに、およそ300万円の資金が必要だという見通しがついたので、次はこの資金をどう集めるのかという問題になる。預貯金は200万円。収入がない現状ではこの貯金を切り崩して生活していく必要がある。できれば300万円の融資を受けたいところだ。
インターネットで調べてみる限りでは、創業する人の多くが
日本政策金融公庫の創業融資
を利用しているようだから、そうなると自分もやはり日本政策金融公庫の創業融資した方がいいのだろう。
日本政策公庫のHPを確認すると、いろいろ説明されているのでイメージしやすい。
「なになに・・・・・・ 自己資金の要件が書かれているぞ。
“新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を1期終えていない方は、創業時において、
創業資金総額の
10分の1以上の自己資金
(事業に使用される予定の資金)が確認できること”
ということは、手もとに200万円あるから、300万円借りることは大丈夫ということか? 担保・保証人も原則不要と記載されているから問題ないな」
資金使途は、運転資金と設備資金に分かれるようだ。毎月の家賃や水道光熱費などが運転資金だとすると、机や椅子を購入するのが設備資金になるのだろうか。融資を受けるためには創業計画書を出す必要があるようだが内容についてはよくわからない。日本政策金融公庫の金利もよくわからないから、この辺りを天海さんに質問して、アドバイスをもららうことにした方がいいだろう。
創業融資のイメージが以前より固まってきたところで、私は天海さんの税理士事務所を訪ねた。
相変わらず静かな事務所で客は誰もいない。
老人がひとり膝にネコをのせてウトウトしていた。天海さんだ。やはり働いているのは天海さんだけのようである。まあ、隠居したといっているから留守番のようなものだろうか。
「天海さん、呼び鈴鳴らしたんですが・・・・・・ 鍵も開いてるし、少し不用心なんじゃないですか?」
「ん・・・・・・ おお、誰かと思えばはじめさんかい。今日は何の要件じゃ?」
「ええ、融資についての相談に来ました。賃貸料や備品費などを計算していくと起業するのに300万円ほど必要だなということになりまして、資金が不足しているので日本政策金融公庫から融資を受けたいんです」
「日本政策金融公庫? 自己資金はどのくらいあるのじゃ?」
「そうですね。自己資金は200万円ほどあるんですが、これを使い切ってしまうと生活できなくなってしまうので、できるだけ多くの融資を受けたいです。できたら300万円ほど・・・・・・」
だんだん語尾が弱くなっているのに自分でも気づいた。創業資金が300万円で、満額の300万円の融資を受けたいというのはムシが良すぎる話なんではないかと思い始めたからだ。
天海さんは眠たそうな目をこすりながら、
「生活費込で貯金が200万円なら、自己資金は100万円ということじゃな。自己資金はビジネスに利用できるお金であって、生活費を除いた金額になるからじゃ。男1人なら月に20万円ほどかの。仕事が軌道にのるまで5ヵ月程度かかったとして、20万円×5ヵ月分の100万円は生活費として残しておけばとりあえず大丈夫だろう」
5ヶ月は無収入になっても、
耐えて生活できるだけの資金は必要なのだ。
満額の300万円の融資を受けられれば、200万円の資金が残るから倍の10ヶ月は耐えられる計算になる。そこまでにはきっと成果を出せるだろう。問題は満額借りられるのかという点だが・・・・・・